3年最後の文化祭も終わり、ようやく落ち着いた休みを取れた。
今まで、吹奏楽部の練習だったり、クラスの準備手伝ったり、忙しかったもんなぁ。
今日ぐらい、ゆっくり寝ても良いよね。久々の休みなんだし。
そう思って、まだ服に着替えもせずに、二度寝するべく布団に戻った瞬間、
"〜♪"
「……」
無情にも、携帯が電話の着信を告げていた。
――青空、太陽――
「おっせーぞ、!」
息を切らして、待ち合わせ場所に着いた私に、開口一番に、呼び出した張本人、コウは仁王立ちで言ってきた。
ことの始まりは今から30分前。
本当だったら、無視したいところだったけれど、大すきな彼からの着信を放ってはおけない。というより、普通に友達だったとしても、後が怖い。
で、結局、観念して電話に出たら、
"お、やっとでやがったな"
『どうしたの? 急に』
いつもだったら、せめて前日にでも約束をするのに、今日に限って、日曜日の、しかもこんな時間から電話してくるなんて珍しい。けれど、そんなこと言おうものなら怒られてしまうから、それはぐっと心の奥に押し込んで。
"いや、せっかくの休み、いい天気なんだし、どっか行かねぇか? 言っとくけど、二度寝するとかはなしだかんな!"
『う……』
見透かされてる。口ごもってしまった私に、コウは、やっぱりな、って言いたげなため息をついて、でも、次に聞こえてきた声は、どこか淋しげなものだった。
"今日、ライブなんだよ。その前に、お前に会っときてぇなぁって…"
『コウ…』
そうだ、ちゃんとコウから聞いていたから、夕方の予定にはばっちりライブを見に行く予定にはしてた。けど、普段、あんまり弱音を吐かないコウだから、ちゃんと気付いてあげれば良かった。
『ごめんね、私……』
"あーもう、オマエのんな声聞きてぇわけじゃなくて! いいから、とにかく、今から30分で支度して出てこい!"
『えぇ!?』
女の子には、いろいろ支度ってものがあるんですけど! そう叫びたかったのに、一方的に通話は切れてしまい、そこから慌てて準備して、今に至る。
「もう、急に言うから、ご飯も食べてる時間もなかったんだから!」
「で、ばっちりメイクには時間かけたってか?」
「そのメイクも、おかげさまで崩れちゃうかも」
ちょっと急かされた腹いせに言ってみれば、コウは、いきなり私の顎を掴んで上向かせる。急にコウとの距離が縮まってドキッとしたけれど、すぐに離れて、彼は意地悪く笑ってみせた。
「全然余裕じゃん。服も、似合ってるしよ」
「あ、ありがと……」
コウにしては珍しく、照れ隠しもない言葉に、こっちの方が恥ずかしくなる。
今までは、照れ隠しが大袈裟なくらいだったコウだけど、ちょっとは余裕ができたのか、私をからかってきたりできるようになっていた。
「んじゃ、行こうぜ」
「行くって、どこに?」
「とりあえず、ボーリング場かな? あとは行ってから決める!」
自信満々にそんなことをいう辺り、やっぱりコウはコウなのかも。そう思うと、何だかすごく安心した。
「ほらよ、手」
「うん、ありがと」
前は、手を繋ごうとしただけでも照れ隠しに悪態をついていたくせに、なんて思うと、自然と笑うことができた。
コウは、ずっと、私にとって、気の許せる相手で、それが、恋人になって、余計に強くなった。コウも、自然体で接してくれてるせいかな。
「おい、何だよ、ぼーっとして」
結局、ダーツをすることになった私達は、ダーツ場に来ていたんだけど、ついつい考え事をしてしまう。前は、どうだったかなぁ、なんて。
「えへへ、コウに見とれちゃった」
「ばーか、んなの、当然だろ?」
軽く私の頭をこづいてきながら、コウは余裕たっぷりに笑ってみせる。ちょっとは、ライブ前の緊張がほぐれてきたのかな。それが、私のおかげだったりすると嬉しいんだけど。
「そういえば、そろそろリハの時間じゃない?」
「お、もう、そんな時間か? おまえも来るよな?」
「うん」
一日マネージャーから、正式にマネージャーに任命された私は、ライブ前のリハも見ることを許されてる。それは、客観的に見るためでもあるし、私もメンバーの一員として一緒に考えられる、ということ。
ライブハウスについて、チューニングや音出しをしているメンバーを、私は客席側から見る。演奏も、コウのボーカルも、初めてライブを見た時から格段に良くなっていて、前にカラオケで「お前をステージの真ん中に置いておくのもいいかもな」なんて言ってたコウの言葉が、何となく思い出された。
ねぇ、コウ? 今の貴方には、私はどう映ってるのかな?
無事にライブも終わって、打ち上げに行こうというメンバーの誘いをさりげなく断って、私とコウは一足先に家路についた。これも、お決まりみたいになってて、デートの帰りは、どんな時間帯でも、必ずコウが家まで送ってくれた。
今日は、ライブがメインということもあって、話題も今日のライブの話ばかり。私も音楽が分かるようになってきたから、曲についていろいろ話し合うことができる。
「でも、やっぱり、私、コウの書く曲、好きだな」
「え……?」
唐突に言い出したからか、コウが驚いたような声を上げる。でも、恋人目線を差し引いても、本当に良い曲だって思うんだ。
「そういえば、初めて会った時から、おまえ、オレの曲、気に入ってくれてたよな」
「うん、あの頃から、私はコウのファンだもん」
音楽室から聞こえてきた、きれいなメロディ。それに導かれて、音楽室に入らなければ、私達が今こうしていることはないのかもしれない。
こうして、コウのライブも頻繁に見に行くことも、マネージャーになることも、手をつないで送ってもらうことも。
「たくさんの素敵な時間、ありがとう、コウ」
ほんとに、コウの言う通り、二度寝なんかしなくて正解だったよね。
そういうつもりで言ってみたら、
「何だよ、それ。もう終わりみたいじゃんか」
「ち、違うよ! そんなつもりで言ったんじゃ……」
「いーや、そう聞こえたね!」
私の言い方がよっぽど気に入らなかったらしい。ちょっと不機嫌そうな顔になって、きっぱり言い切ってくる。うぅ、ほんとにそんなつもりで言ったんじゃないのに……。
どうやったら、機嫌直してくれるんだろう。そんなことを考えていたら、
「ッ……!」
不意に、掠め取るような口付けをされて、私は呆然としてしまう。そのまま何も言えずにいると、コウはようやくいつもの自信満々な笑顔を見せた。
「終わらせねぇよ、ゼッテェに! やっと鈍感ボケボケのおまえを捕まえたんだ。そう簡単に離してたまるか!」
「コウ……」
言いようは酷いけれど、確かに、あからさまなコウの態度に気付かなかった私も私だし。それに、すきな人に、離さない、なんて言われて、嬉しくないわけがない。
「離さないで。私も、もっとコウといたい……」
「……」
思わずぎゅっと抱きついてしまえば、コウが優しい声で名前を呼んでくれて。自然と見つめ合う形になって、唇が重なる。
触れて、離れてを何度か繰り返して、次に離れた時には、コウの頬が少し赤くなっていた。
「ったく、相変わらずズリィよな、おまえのその上目遣い」
「ふふ、まだ言ってる」
額を合わせて、笑いあって、そんな他愛もないやり取りも、まだまだ始まったばかりだけど。
「クリスマス、パーティーだから2人きりってわけにはいかないけど、スキー合宿の時は一緒に滑ろうぜ」
「うん」
一緒にいることの幸せを教えてくれたのは、コウだった。もっと、近くにいたいと望んだのは私。2人の願いが叶った結果が、今、ここにある。
眩しい太陽のような貴方。
その隣で、いつまでも笑っていたいから。
私は、貴方を包み込む青空になりたい。
いつまでも、貴方と歩んでいけるように。
あとがき:
リハビリ期突入中。
今絶賛ハマり中の『ときメモGS2』の夢です☆
これは、捏造ものですが、本来ならもうちょっと早く
ヒロインとくっつけるんじゃないかなぁって、ときめき台詞を見て思ったり(爆)
基本、卒業式の後で告白されて付き合うことになるんですが、
恋人デートが書きたくて、こんな感じになりました(^_^)
絶対、ハリーは、付き合いだすと余裕が出てくると信じて疑わない結城です(爆)
ここまでお読みくださり、ありがとうございました(>▽<)
〔2009.11.3〕
BGM by 星村麻衣 『桜日和』