ベルケンドの、宿屋の一室。
飛び込んだのは、男性チームの部屋。
ルークは他のメンバーと買い出しに行き、ジェイドは用があるとかで、音機関研究所に行っている。つまり、今、部屋にいるのは、
「ど、どうしたんだ?」
ガイ、ただ一人。
ここから、私の作戦が始まる。
――亡命大作戦――
「良かった、ガイがいてくれて」
ドアを開けてみて、本当にガイ一人だったのを見て安堵する。それに、何より、ここは音機関の街。もしかしたら、外にあふれかえる音機関見たさに、ガイが出かけてしまっているんじゃないかって心配だったから。
けれど、当のガイは、全く訳がわかってなかったらしく、呆気にとられた様子で私を見てる。
「で、唐突に部屋に来て、どうしたんだ?」
「うん、実はね」
言いかけて、一度、周りの様子をうかがう。ルークはともかく、もう一人には帰ってきて欲しくなくて、一呼吸おいてから、ガイに対しては割と近寄り気味で言った。
「マルクトに、亡命ってできるかな?」
「は?」
単刀直入に言ったからか、ガイが頓狂な声を上げる。けれど、言った私の方は真剣そのもので、迂闊にガイに近付きそうになるのを何とか抑えながら続ける。
「だって、ガイ、ナタリアに、マルクトに来るなら歓迎するみたいなこと言ってたじゃない。だったら、キムラスカ人がマルクトの人間になる方法知ってるんでしょ?」
「いや、まぁ、言ったけど・・・」
私が近付いた分だけ、ガイが後ろに下がる。そこではたと気付いて、とりあえず落ち着くために、ガイから離れたところにある椅子に座った。
「ガイって、マルクトの伯爵家なんでしょ? だから、出来るのかな、って思って」
「いや、伯爵は関係ないんじゃないかな? けど、何で、また唐突に?」
「それは・・・」
「その話は、私も興味ありますね」
不意に、後ろから聞こえてはいけない声が響く。恐る恐る振り返ろうとして、けれど、諦めた。というより、今、目線を合わせたくない。
「じゃあ、私はこれで・・・」
「おや、、どこへ行くんですか?」
がしっ、と、手を掴まれてしまっては、その場から動くことも出来ない。というか、無言の圧力の方が、よっぽど怖い。
「あぁ、ガイ、ちょっと、ルーク達への伝言を頼まれて欲しいんですが・・・」
言いながら、それでも、ジェイドは、私の手を掴んだまま。これは、口に出していなくても、私には残れと、ガイには出て行けと言っているようなものだ。そのまま、暫く、私の周りだけが静寂に包まれる。ガイとジェイドの会話なんて、入ってくるはずもない。
「さて・・・」
いつの間に、話を済ませたのやら。唐突にジェイドが言うと、いきなり呪縛を解かれたかのように、自由になる。けれど、それは、動けない状態から自由になったのであって、ジェイドから解放されたわけでは、決してない。
「あまり穏やかではありませんね、亡命などと。ルークと良い、ナタリアと良い、キムラスカの方は暴走傾向にあるんですかねぇ」
「・・・・・・」
さすがに、そう言われては、ぐうの音も出ない。私は王族に名を連ねるものではないけれど、父はキムラスカで伯爵位を戴くもの。ある意味、同じバチカル育ちの上流階級という点では似ているのかもしれない。
それはともかくとして。
ジェイドに聞かれていたのは失態だった。絶対、聞かれたくなかったのに。
「マルクトの軍人としては、聞き逃せない単語ですし、説明してもらいましょうか?」
飄々とした態度で、椅子にゆったりと腰掛けて優雅に足なんて組んでるジェイドを、ゆっくりと見やる。まるで尋問を受けているようなこの状況。もし、本当に、ジェイドも尋問しているつもりなんだとしたら、絶対に逃れられない。
「え、え〜と、ガイがナタリアを誘ってたから、簡単に出来るものなのかな、って」
「簡単じゃないですよ? だから、貴女が何故そんなバカなことを考えたのか気になってるんじゃないですか」
「・・・・・・」
話題転換作戦、失敗。
「あ、私、キムラスカ人だから、マルクト人に興味あるなぁ、なんて」
「おや、おかしいですね? ガイも私もマルクト人ですし、散々マルクトの街にも行ったのでは?」
「・・・・・・」
ちょっとそれらしいこと言ってみた作戦、失敗。
あぁ、っもう、既にネタ切れな予感だし、ジェイドは何を言われてもありとあらゆる言葉を駆使して言い返してくる気がする。
なら、ここは、いっそ大博打だ!
「一緒に、いたい人が、マルクトにいるの」
「ほぅ・・・」
これには、さすがのジェイドも、頭ごなしに否定したりしなかった。だって、誰か、って名を明かしてないながらも、これが、私の本心なんだから。
「セシル将軍とフリングルス将軍の話、ジェイドも見てたでしょ? セシル将軍はキムラスカ人、フリングルス将軍はマルクト人。だから、セシル将軍は求婚を受け入れられないんでしょ?」
「・・・・・・」
「わかってるよ、飛躍しすぎてるって。でも、それしか方法が思いつかなかったんだもん」
途中から、作戦抜きに、本気で語ってしまった。
だって、あんなのを見せつけられたら不安にもなるよ。今は、戦争が再開されるかどうかの危機的状態だから、余計に、軍人である2人は微妙なやりとりになってしまうのかもしれないけれど、それでも、私はキムラスカ人で、彼はマルクト人だから、というのを気にしてしまうんだ。
そのまま、沈黙が続く。先に口を開いた、というか、ため息を吐き出したのは、ジェイドだった。
「、聞いていなかったんですか?」
「え・・・?」
そして、吐き出された言葉は、予想外のもので。そのまま、ジェイドの言葉を待っていると、彼はまた一つため息をついた。
「セシル将軍が求婚を受けないのは、彼女の家の事情があるからですよ。それに、戦争が終われば、キムラスカやマルクトなどと気にしなくても良いのでは?」
「あ・・・」
確かに、停戦状態にある時は、普通に2国間を行き来してたし、その中で結婚した人もいたような、いなかったような。
「つまり、私のしたことは・・・」
「無駄、ということになりますねぇ」
はっきりと言ったジェイドの言葉に、思わず肩が落ちる。私が、どれだけ、この瞬間を狙って、意を決して、ガイに聞いたと・・・ッ!
そんな私の思いを知ってか知らずか、ジェイドはけろっとして言ってきた。
「全く、早とちりというか、何というか。にそんな勘違いをさせるとは、どこのマルクト人ですかねぇ」
「ッ〜〜〜!」
もはや、わかっててそこまで言ってるんじゃないかと聞きたくなるような言いぐさに、言いたかった言葉も飲み込んでしまった。このまま喋り続けたら、墓穴を掘りそうな気がする。
「・・・私、買い出し手伝ってくる」
もはや、気力も使い果たして、とりあえずこの部屋を出ることにする。そうだ、素直に買い出しを手伝おう。今は、私達には問題が山積みなんだから。
いきなり現実に戻っていろいろ考えていると、不意に掴まれた、手首。気付いた時には、抱きしめられていた。
「」
「ッ・・・!」
耳元に響く、甘い声。それだけで、体が跳ね上がる。これこそ、一番の予想外だ。
「ジェ、ジェイド・・・?」
女性恐怖症のガイに次いで、絶対にこんなことをしそうにない男が、今、私を抱きしめている。もう、頭は既にパニック状態だった。
「バカですねぇ、貴女も。言ってくれれば、いつでも、マルクトにお連れしますよ?」
そう言って、ようやく私を離して。目に飛び込んできたのは、楽しそうな笑顔。
「私が、ね?」
「ッ、やっぱり、気付いてたのね!?」
予想外、というか、ここに来て一番予想通りの台詞というか、とにかく、思わず叫んでしまう。そしたら、そんな私の反応なんて予想していたのか、ジェイドが相変わらずの表情で言ってきた。
「おや? いつ、私が気付いていないとでも?」
「い、言ってないけど・・・」
あぁ、こんなの、言葉遊びじゃないか。このままだと、不毛な争いが続きそう。
だから、たまには、素直になっても良い、よね?
「私、戦いが終わっても、ジェイドと一緒にいたい・・・」
「そういう台詞は、決戦前夜に言うものですよ?」
恥ずかしくなって、ジェイドに抱きついていったら、彼は茶化したように言って笑ったけど、しっかりと私を抱きしめてくれる。今は、それだけで、十分な気がした。
「でも、私、本当にマルクトに行けるの?」
「さぁ? ピオニー陛下にでも頼んでみましょうか?」
こんな冗談ばかりのジェイドが、本当に私をマルクトに連れていってくれたかは、また、別の話。
あとがき:
ついに、書いてしまいました。
最近何だかやたら大好きです、35歳(笑)
某特典の中で、「鬼畜メガネ!」って言われてるのを聞いて
テンション上がったのは内緒です(爆)
そして、雪国3人組も好き。
今度は、ピオニー陛下も絡ませてみたいですね。
〔2009.2.15〕
BGM by 榎本くるみ 『冒険彗星』