何の変哲もない、いつもの休日。何気なく出かけたショッピングで、見つけたかわいい服。
あ、これ良い。
そう思ったのは、今までだったら選ばないだろう服装で。
いつの間にか、彼色に染まっていた自分に気付く。
何だか、それがとても嬉しくなった。
――チョコレート――
「ごめん、待った?」
「いや、今帰るとこ」
そんな他愛もないやりとりをしながら、笑い合う。
佐伯くんと出かけるのは、初めてじゃない。同じバイト先という秘密を共有しているせいか、たまに遊びに出かけたりしていた。
「その服さ…」
「え…?」
「良い感じじゃん。俺、そういうの好きだ」
「あ、ありがとう」
ほめられて、やっぱり悪い気はしなくて、何となく恥ずかしくなってしまう。
佐伯くんは、こういう感じの服が好きだっているのは、珊瑚礁に面接に行った時に知った。それからは、佐伯くんと出かける時、似た感じの服を選ぶようになっていた。
けれど、
「ほら、行くぞ」
「あ、待ってよ」
お互い、友達として、仕事仲間として、共有する時間は多い。それは事実。そして、佐伯くんが、私のことを友達以上に思っていないことも。
第一印象はお互い最悪。そこから、ここまで一緒に出かける時間が持てるくらいは仲良くなった。それはそれで、すごい進歩だと思う。
『あの佐伯がなぁ。女子には外面いいくせに、オマエ、意外と気に入られてたりしてな?』
不意に、彼の言葉がよぎって、胸が少し痛くなった。
佐伯くんとは、良い友達だと思う。けれど、私には、友達のままじゃ嫌だって思える人がいる。
「って、聞いてんのかよ?」
「あいたぁ」
おでこにチョップを食らわされて、私は思わず声を上げてしまう。そんな私に、佐伯くんはため息をついた。
「オマエ、今日は帰れ」
「え…?」
唐突に言われた言葉に、思わず聞き返してしまう。そしたら、佐伯くんは、始めは呆れていたようだったけれども、どこか優しい声音で言ってくれた。
「疲れてんだろ? 最近バイトもキツい時多いし、さっきから上の空だし」
「う…」
図星をつかれて、何も言えなくなる。確かに、佐伯くんの言葉、全然耳に入ってこなかったよ。それも、全部彼の…。
「ほら、明日のバイトに響くだろ? 休んだりされたら、店やってけねぇんだからな」
「う…、わかってマス」
佐伯くんなりの優しさだっているのはわかるけど、そこまできっぱり言われちゃうとなぁ。
けど、反論ができないのも確かで、私は佐伯君に促されるままに家に帰ることにした。
あ〜ぁ。何か、私への印象、悪くしちゃったかなぁ。明日は元気にバイトに行って、今日の分を取り返さないと。
そう思ってたら、
「?」
「あ、ハリー」
ギターを背にした彼の姿に、さっきまで落ち込んでいた気分が一気に浮上するのがわかった。自分でも現金だって思う。けれど、これが私の本心なんだもん。
「何だよ? どっか出かけてたのか? いつもと感じが違うっつーか、らしくねぇじゃん」
「う…」
鋭いツッコミを受けて、ぐうの音も出ない。
だって、ハリーと出かける時は、ハリーが好きそうな服装とか、最近流行ってるのとかチェックして、ばっちり決めて出て行ってるんだもん。確かに、こんな清楚な感じじゃ、いつもの私らしくないって思われて当然だ。
でも、本当は、高校に入るまではこういう服装が好きだった。かわいい系に目が行って、ついついそういうのばっかり買ってしまう。
けど、ハリーに出会って、流行を知るようになって、もっとハリーと仲良くなりたくて、必死にハリー好みの女の子になれるように勉強した。その甲斐あって、ハリーと出かける時はいつも服装を褒めてもらえてたんだ。
「? どうかしたのか?」
「うぅん、何でもない」
ほんとは、何でもなくなんかなかった。
始めは、ハリーのためって無理してた服装。けれど、いつの間にか、それが私の「好み」に変わっていたんだ。前だったら、タイトなものなんて選ばなかった。赤はもとから好きだったけれど、ハリーの好きそうな服装が、私もいつしかいいなって思えるようになってた。
それだけ、私、ハリーのこと…。
「何でもねぇんだったら、今、暇か?」
「え…?」
唐突な誘いに、思わず聞き返してしまう。そしたら、ハリーは、いつもの笑顔で言ってくれた。
「何か、元気なさそうじゃん、。オレも、実はまだ歌い足りねぇって思ってたとこだし、これからカラオケ行かねぇ?」
「え…?」
唐突に誘われて、思わず聞き返してしまう。ハリー、もしかして、私に気を遣ってくれてる?
そんなことを思いながらも、顔が自然と笑ってしまうのを感じる。代わりに、ハリーは不服そうな顔になって。
「何だよ?」
「うぅん、誘ってくれて嬉しい」
素直な気持ちを口にすれば、ハリーはなぜか私から目線を逸らした。何でって思う前に、彼は折角セットしていたはずの頭をがしがしとかいて、言ってくる。
「あ〜、ほら、行くぞ。今からの時間帯だったら、ゼッテェ混んでるし」
「う、うん」
先に歩き出したハリーの後を追いかけるように私も歩き出せば、ようやくハリーはいつも通りの感じになっていた。友達、そう思うと、胸が少し痛いけれど。
「ねぇ、ハリー?」
「あ?」
"友達"だから、包み隠さず、本当のことを言ってくれるかもしれない。それに、ハリーはいつだってそうだったし。そう思って、思いきって聞いてみる。
「これ、変じゃない?」
軽く服の裾を引っ張りながら言ってみれば、ハリーはちょっと驚いたような顔をする。けど、少し真面目な顔になって、私を見てから、優しい笑顔を見せてくれた。
「まぁ、確かにいつもと雰囲気違うけど、オレは別に、お前が似合ってるなら何でも…じゃねぇ! とにかく、気にすんなってことだ!」
言葉の後半は、何だか誤魔化されたような気もするけれど、喜んで良いのかな、これは。そう思うのは、自惚れかな?
「ありがとう、ハリー」
「まぁ、気にすんなって」
少し先を歩くハリーの顔を見れなくて、俯いたまま言ったら、ぶっきらぼうな答えが返ってくる。けれど、それでも、私には十分幸せだった。
いつの間にか、貴方色に染められていた私。
気付けば、考えるのは貴方のことばかりで。
貴方にとっては何でもなくても、私には、かけがえのない、甘い甘い時間。
いつか、私に勇気が出たら、ちゃんと、伝えるから、それまで、待っててね。
翌日。
「お前、昨日オレと別れてから、針谷と遊びに行ってたらしいな? いい度胸してんじゃねぇか?」
「え、えぇ…!?」
なぜか、バイト先には不機嫌な佐伯くんがいて、困惑する私に、マスターはただ楽しそうに笑うだけだった。
あとがき:
最初、書いていて、自分でも佐伯夢かと思いました(爆)
佐伯くんの台詞は、友好状態のものですが、
一応、イメージではハリー⇔ヒロイン←佐伯くんで。
またやっちまったよ、両片想い。
まさしく、今プレイ中の、ハリーED3、もしくは、親友エンドを目論んでる状態を
そのまま形にしてみました。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました(>▽<)
〔2009.12.7〕
BGM by the brilliant green 『そのスピードで』