ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ不安になって。
 少しでいいから、君の声が聞きたくなって。
“うん、良いよ”
 俺の言葉に、きっと、ふわりと微笑んだ。
 そんな姿を思い出すだけで、幸せになれるんだ。


――不安定なココロ――


「お、来た、来た」
 走ってきた君に、声をかけてみれば、返ってきたのは息の乱れた声。
「だって、翼くんが、屋上で待ってるって言うから」
 そういう君の顔は赤くて。
 それは走ってきたから? それとも、照れてるの?
「ぬはは、俺のこと心配してくれたのか? だとしたら、すっごく嬉しい」
「もぅ…」
 全く動じてない俺に、ミコトはため息をつく。うぬぬ、ため息をつくと幸せが逃げるんだって、じいちゃんが言ってたぞ。
 でも。
「その分、俺が幸せにするからいっか」
「え…?」
「何でもな~い」
 思わず独りごとを言ってしまって、つい誤魔化した。
 非科学的なことなんて信じてないけれど、君が幸せじゃないのは嫌だから。なんて、俺の独りよがり。
「でも、急にどうしたの?」
 ようやく落ち着いたのか、ミコトが、真っ直ぐ俺を見つめて言ってくる。
 綺麗な瞳だな。
 そんなことを思ってから、笑った。
「何か、急に、ミコトに会いたくなった」
「それだけ?」
「ダメか?」
 聞き返してみれば、ミコトはすぐに首を振ってくれる。それに、俺はまた1つ、安心するんだ。
 理由なんてない。
 1人きりの休日。いつものように実験をしてたはずなのに、考えるのはミコトのことばかり。
 そうしたら、急に不安になっていくんだ。
 俺は、生徒会のメンバー? ミコトは、俺の彼女?
 そんな、当たり前のことを確認したくて、ミコトを携帯で呼びだした。本当は生徒会室にしようかと思ったけど、今日はぬいぬいが珍しく休日出勤してたから、屋上に変更したんだ。
 けど、そのぬいぬいが、もうすぐいなくなる。
 冬空は寒くて、吐く息が白くなる。もう、吹っ切れたつもりだったのに、やっぱり、何だか不安で。
「つ、翼くん…?」
 気付いたら、ミコトを抱きしめてた。
 いつか、ミコトも卒業する。そんな、当たり前のことが、やっぱり怖いんだ。もう、永遠に失うってわけじゃないのに。
「ぬはっ、ミコト、耳まで真っ赤だぞ!」
「つ、翼くんがいきなり過ぎるの!」
 俺の言葉に、怒ったように返すミコト。そんな君が、本当に大好きで。
「ん…ッ!」
 こうして、唇を重ね合わせて、抱き合って、そんなぬくもりで、幸せを感じる。
 君の笑顔が見られるだけで、俺は幸せ。君に触れることができれば、もっと幸せ。
 何て単純な公式なんだろう。きっと、俺が普段やってる実験より、結果は簡単だ。
ミコト、俺のこと、ぎゅーってして?」
「え…?」
「いいから、早く!」
 急かしてみれば、ミコトは遠慮がちに、俺に向き直ってから、そっと首に手を回す。
 そんなに照れなくてもいいのに、って思う反面、やっぱり、こういうミコトが可愛いって思っちゃうんだ。
「大すき、ミコト!」
「私も…。すき、です」
「うぬぬ、すき、じゃ、足りないぞ?」
 照るのをわかっててわざとそんなことを言ってみる。そしたら、案の定、ミコトは何か言いたそうに俺の耳元で唸ってたけど、すぐにか細い声で言ってきた。
「…大すき、です」
「うぬ、上出来!」
 俺が笑ってミコトの髪を撫でれば、ミコトからは笑い声が漏れる。
 あぁ、幸せだな。
 さっきまでの不安なんて、どっか行っちゃった。ほんと、ミコトは、最強で、最高の、俺の彼女だ。
 ミコトを少し離して、お互いの左手を、指を絡めるように合わせれば、重なり合う二つの指輪。俺とミコトの絆。
「よし、じゃあ、帰りに生徒会室に行って、ぬいぬいの邪魔をしに行くのだ!」
「え、邪魔、って、翼くん…!?」
 俺の言葉に、置いてけぼりのミコトは、それでも後をちゃんとついてくる。って、手を繋いでるんだから、当たり前なんだけど。


 ほんの、些細なきっかけ。
 溢れた不安は、少しずつ大きくなる。
 けれど、それは、すぐに君がかき消してくれるから。
“何だか、翼くんの声が聞きたくなって、かけちゃった”
 俺が通話ボタンを押そうとした3秒前、君からの着信に驚いて出た俺に、君はそう言って、はにかんだみたいだった。
「ぬはっ、俺も。以心伝心だな?」
 笑い返せば、可愛い声が返ってきて。10秒前の不安は、綺麗さっぱり飛んで行った。
 君だけが、俺を癒せる。今は、そのことを知ってるから、不安はないよ。
 だから、2人で幸せになろう。





あとがき:
不意に、タイトルが思いついて、勢いのままに書いてしまいました。
何となく不安、そんな気持ちが書きたくて。
今回は、ちょこっとだけゲームのネタバレも含みつつ、それでも脳内ではゲームの翼くんを思い出しながら書いてました。
翼くんルートは、暗い過去が付きまとうんですけれども、
それを乗り越えていく姿は、可愛い翼くんがカッコ良いと思える瞬間です(^_^*)♪
それでは、ここまでお読みくださり、ありがとうございました(>▽<)
〔2010.2.23〕
BGM by 鈴村健一 『Butterfly』