気付くと、私は氷の上に立っていて。
それは、とても薄く、一歩踏み出すだけで割れてしまいそう。
そして、気付く。
あぁ、私は、こんなに脆い世界の中にいる。
――踏み出す勇気――
「う〜、また負けたぁ。やっぱ、アレンにポーカーで勝とうなんて無謀だよ…」
「そんなことないですよ。は、上達すれば強くなれますって」
こうやって、アレンと談話室で過ごす日々も。
「……」
「……」
「…おい」
「何?」
「何でまたお前がいるんだ?」
「良いじゃない、同じ日本人同士」
訓練所で、神田に舌打ちされながら、座禅してることも。
「科学班のみんな〜」
「コーヒーが入ったよ」
「お、リナリー、!」
「待ってました!」
こうやって、科学班のみんなに出迎えられながら、リナリーとコーヒーを配るのも。
「……」
泣き声が、たくさんの声がこだまする、大聖堂。
不意に引き戻される、現実。
そう、今は、戦争なんだ。
「?」
呼びかけられて、振り向けば、そこには私服姿のラビがいて。何だか、その姿に、安堵する自分がいた。
「今回も、たくさん死んだんだね…」
「負け戦、だったみたいだな」
ラビも、大聖堂の方に目を向けながら、呟く。そう言えば、ラビと初めて会ったのも大聖堂だったっけ、なんて、今、そんなことをふと思い出した。
「、今時間あるか?」
聞かれて、感傷的になりかけてた私は、不意に現実に引き戻される。目線を戻せば、こんな場所には似つかわしくないくらいの笑顔を浮かべたラビがいて。
「ちょっと、散歩しねぇ? と会うのも久し振りだしさ」
「うん」
言われて、すぐに頷いてみせる。
この数日、私には任務は回ってこなくて、その代わり、ラビはずっとクローリーと任務に出ていた。せっかく恋人になれたのにな、なんて、嘆いてる暇もない。今は、戦争だから。
「、教団にいて何してたんさ? 読書とか?」
「う〜ん、いろいろ。アレンとポーカーしたり、神田と座禅組んだり、リナリーと科学班に差し入れしたり」
「な〜んか前半の2人といるのは納得いかねぇさ」
あったことを正直に言えば、不服そうに言ってくるラビ。そんな彼に、私は思わず笑ってしまう。
こうして、話してるだけでも幸せなんだ。不謹慎かもしれないけれど、ラビがいてくれるから、私は生きていられるとさえ思うほど。
でも。
幸せと同時くらいに、去来する不安。いつか、ブックマンとしていなくなってしまうんじゃないかって。それよりも先に、エクソシストとして…。
「?」
気付いたら、私は、ラビの服をきつく握りしめていた。何でもない、なんて、誤魔化しがきかないほどに。
「ねぇ、ラビ? ラビの世界の中に、私はいる?」
「え…?」
唐突にそんなことを言いだしたからか、ラビは驚いたように私を振り返った。けれど、それは、私の中に確かにあるものなんだ。
いつだって、甘い言葉をささやいてくれるラビ。彼の方が一枚も二枚も上手で、付き合い始めた今でも、甘やかしてくれるくせに、肝心のところははぐらかす。
それが、来るべき"いつか"を予兆させているようで。
「私、"ラビ"が主人公の物語ではヒロインでいられるよね?」
そんな意地悪な聞き方をついしてしまう。ラビが何も言えなくなるのを知っていて。それでも、確かめたくて。
悲しい別れはしたくない。戦争が2人を引き裂くなんて、そんなの、物語の中だけで十分だよ。
私達は、戦争に駆り出される兵士。そんなこと、わかっているのに。
「」
呼ばれて、気付けば思い切り抱きしめられる。私の名前を呼んだラビの声は、どこか悲しそうだった。
「ちゃんと、は"オレ"のヒロインさ。もう"オレ"の世界には、お前しかいないんさ」
「ラビ…」
抱きしめる力が、さらに強くなる。まるで、おもちゃを取られまいとしている子供のよう。だから、ラビのその言葉を信じられる。
「うん、ありがとう、ラビ…」
いくつも巡ってきた記録地の中で、私だけを唯一と言ってくれる、そんなラビの優しさが嬉しくて、私は、ようやく、自分の存在を確かなものに出来た気がした。
ラビが、いなくなることが怖い。
それだけ、私の世界は、貴方の存在が大きくなりすぎて、もう、何も見えなくなってしまうくらい。
そんな、霧の中のような世界。
足元は覚束なくて、前に進むことが出来ないでいる。うぅん、このままが良いって、思ってしまっている。
けれど、私が自分の足で歩きださなければいけないとしたら、新しい一歩を踏み出させてくれるのも、きっとラビだと思うから。
その時には、何ものにも負けない強さをください。
あとがき:
何となく去来した不安、というのを書いてみたくて出来た作品。
あんまり夢っぽくないですねσ(^◇^;)
でも、49番目の"ラビ"の彼女じゃなくて、ずっと思い続けるんだってことが書きたかったので、
"オレ"の世界、と表現させていただきました。
ブックマンもですが、ラビも48番目の"ディック"以外は出てきてないですしね。
リナリーの、「私はまだ世界の中にいる?」って台詞が印象的で、
それにのっかってる部分もありますが、ブックマンという役割を考えていると、
ふとそんなことをヒロインちゃんも不安になっちゃうんではないかと。
そういうのが出せてれば良いなぁと思います☆
ここまでお読みくださり、ありがとうございました(>▽<)
〔2009.12.21〕
BGM by 星村麻衣 『regret』