「バレンタインはね、女の子が、すきな男の子にチョコを渡して、告白する勇気を貰う日なの」
 あ、男女問わず、友達や家族に渡しても良いんだけど。
 そう教えてくれたリナリーは本当に楽しそうで、きっと、コムイさんには間違いなくあげるんだろうなぁ、なんて微笑ましく思っていた。
は、ラビにあげるんだよね?」
 そう言われて、思わず頷いてしまったけれど、一気に恥ずかしくなる。きっと、私があげなくても、催促してくるに違いない。
「一緒に頑張ろうね、手作りチョコ」
 初めて迎えたバレンタインデー。それを、大すきな人にあげられるなんて、幸せなことだと思うから。
 リナリーの提案に、私は迷うことなく頷いていた。


――いとしいきみへ――


 そして、やってきた、2月13日。
「……」
 あまりの出来事に、私は思わず絶句してしまう。私の予想では、バレンタイン当日、女の子からチョコを貰ってへらへらしてるであろうラビに、自分のチョコは顔面ドストライクに決めて渡してやろう、くらいに思っていたのに。
「…何だ?」
 私が黙っているからか、相対する神田は、いつも以上に不機嫌顔。でも、私が呆然とする気持ちも察して欲しい。
 神田から聞かされたのは、今日から任務だ、ということで。それだけなら、いってらっしゃいと見送っていた。リナリーもだけど、同じ東洋人同士、特に、私と神田の場合は日本人だから、他のエクソシストよりも神田とはうまくやってるつもり。
 けれど、さすがに今日はそんな言葉も出てこなかった。
「お〜い、ユウ、支度出来たさ?」
「うるせぇ、ファーストネームで呼ぶな」
 いつもの、聞きなれた会話も、今日は華麗にスルー。そんな私に気付いた兎は、いつものへらへら笑顔。
「お、。愛しい彼氏の見送りに来てくれたんさ?」
 そんなことを、平気で言う。見送りになんか来るはずないじゃない。今日が任務の日だって、たった今神田から聞かされたところなんだから。
 そう、よりにもよって、今日から数日間、神田とラビは任務に出かける。当然、バレンタインに間に合うはずもなく。道理で、昨日意味も無くコムイさんに謝られるわけだ。
「おい、何突っ立ってやがる?」
「ちょっと、ユウ、オレのにそれは酷いさー」
 相変わらず不機嫌な神田とは対照的に、ラビはすっかりご機嫌。まるで神田から私を守るように、抱き寄せてくる始末。
 あぁ、神様なんか信じてなかったけど、今日は恨むわ、神様。
、良い子にして待っててな? 任務なんかちゃちゃっと終わらせるさ。あ、他の男と遊ぶのはダメだかんな?」
 そんな軽口を言われて、いつもの私なら、アレンと遊ぼうかな、なんて軽口も叩けていたけれど、さすがに今日はそんなことも出来ない。逆に、ふつふつと沸き上がってくるものがあって。
「……ぎ」
「え…?」
「もう、任務でもどこへでも行っちゃえ! バカ兎!」
 ラビを突き飛ばして、そんな暴言を吐いて、私は思わず駆けだしていた。
 わかってたよ。
 私達はエクソシスト。任務を言い渡されれば、例えそれが恋人の誕生日だろうが、何かの記念日だろうが、関係なく任務に駆り出されることくらい。実際、付き合い始めて最初の私の誕生日、ラビは任務でいなかった。けれど、3日遅れで、仕切り直し、って言って、誕生日を祝ってくれたのは、本当に嬉しかったんだ。

 いつから、私はこんなに欲張りになったのだろう。
 ラビが、ブックマンだから? いつか、いなくなってしまうなら、今を、大切にしたいから?
 うぅん、それもあるけど、もっと根本的なところで、私は我が儘になってしまったんだ。
 もっともっと、ラビと一緒にいたい。

 部屋のドアを乱暴に開けて、また閉めて、私はベッドに突っ伏した。
 もう、最悪だ。
 ラビは何にも悪くないのに。悪いのは、我が儘になってしまった私なのに。
 そう思うと、昨日まで楽しみにしてた今日のチョコ作りも、どうでも良くなってきた。もういっそ、ラビにはバレンタインなんて知りませんでした、って通してやろうか。
 そんなことを思ってたら、

「ノックぐらいしてよ」
 聞き慣れた声に、思わず憎まれ口。何となくだけど、声が笑ったのがわかった。
「今、そこでリナリーに会って聞いた」
「ッ…!」
 言われた台詞に驚いて顔を上げれば、ぐっと引き寄せられて、口づけられる。息もつかせないような、深い口付けに、今までの感情が全部吹っ飛んだ。
 何度も、何度も触れ合わせて、舌が差し込まれる。こういう時、いつだってラビの方が上手で、私はリードされっぱなし。
 ようやく離れた時には、もう、ラビに縋るしか出来なくなっていた。
「ごめんな? 。当日、一緒にいてやれねぇけど、その代わり、約束する」
「約束?」
「前みたく、バレンタインのやり直しをするんさ。帰ってくる日がわかったら、すぐ本部に連絡入れるから、その日に合わせて、チョコ作って待ってて?」
 そう言って、満足そうに笑うラビ。
 そんなの勝手だ。第一、私も任務に行っちゃうかもしれないじゃない。
 そう思ったけど、口に出さずに思わず頷いていた。そんな彼をすきになったのは私。それに、ラビに振り回されるのは、なぜか嫌じゃない。
「もう、あんまり待たせてばっかりだと、どっか行っちゃうんだからね」
「それはないさ」
 自分の中の気持ちを首肯するのが恥ずかしくて、また憎まれ口を叩けば、ラビは自信満々に返してくる。
 何が、って聞き返す前に、また、優しい口付け。
「だって、、オレにベタ惚れじゃん。オレも、のこと愛してるし」
 屈託のない笑顔でそんなことを言われて、一気に頬が紅潮していくのがわかる。どうして、ラビはこんな恥ずかしい台詞をさらっと言えるんだろう。
 けど。
「よくわかってるじゃない」
「当然さ」
 これも、嫌じゃないから。
 思わずラビに抱きつけば、ぎゅっと抱きしめてくれるんだ。
 すき、ラビがすき。この気持ちは、もう、絶対に止められないよ。


 いつだって、私はラビに甘やかされてばかり。
 極上の愛を彼はくれるから、今度は、私から返したい。
 いとしい、いとしい、きみへ。





あとがき:
夢でバレンタイン網羅作戦、『D.Gray-man』編でございます。
ラビだと、異様に甘い話が書けるのはなぜ?(笑)
ラビは、何でも見透かしてると良いと思います。
私の中では、やっぱりブックマンは頭も良くて人の感情の機微に敏感、ってイメージがあるので(^_^*)♪
最近アニメのDグレが熱いので、かなりテンション高めで書いてしまった作品です☆
ここまでお読みくださり、ありがとうございました(>▽<)
〔2010.2.10〕
BGM by BoA 『まもりたい〜White Wishes〜』