その日だけは、日常を忘れられた。
 貴方と過ごす、かけがえのない時間。
 今年も、幸せであるようにと、ただ、願う。


――Merry Merry Christmas――


 日々、任務に追われている私達に、休みはほとんどない。街から街へ、別の任務で出歩く事もあるほど。
 でも、ごくたまに、まとまった休みが取れることもあって。
 しかも、今回はほとんどのエクソシストが教団にいるから、その日はとても賑やかだった。
、すごく似合うよ」
「そ、そうかな? 胸元、開きすぎじゃない?」
 リナリーに絶賛され、着てみたドレスは、割とタイトな、ロングドレス。膝辺りから入ったスリットと良い、この胸元と良い、私には十分派手すぎる。
 でも、
『絶対これ! には、こういうのが似合うさ』
 嬉しそうに言った彼の顔が何となく思い出されて、他のを選び直す気も少し薄れてしまった。だって、やっぱり、一年に一度の日だから、喜んでもらいたいし。
 そんなことを考えてたら、
「うぅん、大丈夫だよ。でも、ラビ、こんなドレス選んじゃって大丈夫かな?」
「え…?」
 不意に言ったリナリーの言葉の意味がわからずに聞き返せば、何でもないって感じで首を振ってみせて、髪型のセットを手伝ってくれる。
 まぁ、リナリーも大丈夫って言ってくれてるんだったら良いか。
 そう自分を納得させて、2人とも、ばっちり準備を整えて、部屋を出る。
 向かった先では、
「メリークリスマス!」
 ドアを開けた瞬間、派手なクラッカー音に、びっくりしてしまう。目の前の紙吹雪が落ちてしまえば、楽しげなアレンとラビの姿が見えた。
「もう、2人とも、びっくりするじゃない!」
「オレ達歓迎係なんさ」
「まぁ、だからって、クラッカーはびっくりしますよね? すみません」
 全く悪びれた様子のないラビとは対照的に、アレンは申し訳なさそうに謝ってくる。やっぱり、紳士だなぁ、アレンは。
「うぅん、良いの。誰かさんは反省すらしてないし」
「え〜、それは酷いさ、
 文句を言うラビは無視して、私はようやく会場全体を見渡す。クローリーにミランダ、神田に室長やリーバー班長の姿もあって、みんな、それぞれ楽しんでるみたい。
 そうやって、みんなのことを見ていたら、
「リナリーもも、ドレス、似合ってますよ。綺麗です」
「あ、ありがとう」
 少年ならではの純粋さか、感想を言ってくれるアレンに、私の方が恥ずかしくなってしまう。リナリーに励まされて出てきたものの、やっぱりこんな格好、恥ずかしいよ。
 リナリーはフレアスカートのドレスで、本当に良く似合ってるって思う。おそらく、コムイさん仕様のドレスも提供されたはずだろうけど、それはさすがに却下したんだろうな。
「リナリー、!」
「あ、ジョニー、タップ! 来てたの?」
 そうこうしているうちに、科学班のみんなが集まってくる。そのまま、中に導かれて、私達はようやく料理の並ぶ会場に案内された。
「2人とも、きれいなドレス姿だから見違えちゃったよ」
「そうそう、特には、普段と全然印象が違うし」
「いや、それがまたかわいいんだけどな」
「みんな、ありがとう」
 口々に褒められて、何だか悪い気がしない。私も、普段はリナリーみたいにスカートタイプの団服だけど、やっぱり、こういうドレスを着ると印象が変わるのかな?
 みんなから言ってもらったのもあって、私も会場の雰囲気と自分のドレス姿に慣れてきた頃、今度はミランダとクローリーも来てくれた。
「メリークリスマス、リナリーちゃん、ちゃん」
「メリークリスマス、である」
「メリークリスマス、ミランダ、クローリー」
 そんなお決まりの挨拶を交わせば、お互いに笑い合って。特に、クローリーは、もともと伯爵みたいな雰囲気だったからか、こういう場が良く似合う。本人は、華やか過ぎてウキウキしてるみたいだけれど。
「みんなが騒ぐだけあるわ。2人とも綺麗」
「うむ。2人が入ってきた途端、華やいだようである」
「もう、言いすぎだよ、クローリー」
 いつになく褒めてくれるクローリーの言葉に、思わず気恥ずかしさが思い出される。けど、ちょっとは自惚れても良いのかな、なんて。
 そんなことを思っていたら、

 不意に、今まで一言も発しなかったラビが、私の名を呼ぶ。振り返れば、どこか怒ったような表情をした彼がいて。
「ちょっと来るさ」
 有無を言わさずに腕を掴まれて、私は訳がわからないままテラスの方に連れて行かれる。みんなには一応、また後で、なんて挨拶をしておきながら、ラビに手を引かれるのに従った。
 速足で、どんどん進んでいくラビ。目指していた場所にはあっという間に着いて、そこでようやく私の手が離される。
「どうしたの? 急に」
 聞いてみても、すぐに返事はなかった。私に背を向けたままのラビの表情は、今の私にはわからない。けれど、不機嫌になっている、というのは、何となくわかった。
 そのまま、どれだけ沈黙が続いただろう。私もそれ以上聞けず、でもそろそろラビに呼びかけようとした時、
「やっぱ、リナリーの言った通り、失敗だったさ」
「え…?」
 唐突な言葉に、思わず聞き返してしまう。そういえば、部屋を出る時、リナリーが、こんなドレスを選んで大丈夫かって言ってたよね。それと関係があるのかな?
「もしかして、変だった?」
「そんなことないさ!」
 聞いてみれば、すぐにラビは否定してくれる。けれど、ようやく振り返ってくれたラビは、何だか怒っているようだった。
「すげぇ似合ってるさ。けど、他の奴にちやほやされて、そんなことのために、それを選んだわけじゃねぇのに…」
「ラビ…」
 イライラと頭をかくラビの言葉に、私はようやく意味を理解する。選んでくれたドレスはラビの趣味に合っていたものだったけれど、他のみんながあんまりにも褒めてくれるから、
「妬いてくれたんだ?」
「そんなん、当り前さ!」
 言って、ラビはもう一度私の手をぎゅっと握る。私からすれば、普段ラフな格好をしていることの多いラビが、こうやってきちっと正装して、しかも髪を下ろしてて、それだけで十分カッコ良くて、他の女の子に見せるのがもったいないって思っちゃうくらいだもん。ラビだって、おんなじことを考えてくれたんだよね?
「ありがとう、ラビ」
「礼なんか…。やっぱ、こういう服着させるのは、2人きりの時で十分さ」
 言いながら、私を自分の腕の中に閉じ込めてしまう、少し子供のようなラビが、何だか可愛いって思ってしまった。
、適当に何か食って、パーティー抜け出そうぜ?」
「え…?」
 突然の提案に、また聞き返してしまう。そしたら、耳元で笑う声がして、それが凄く心地良かった。
「クリスマスなんて、2人きりで十分さ」
 恋人同士なんだから、って、楽しそうに囁くラビの言葉に、思わず恥ずかしくなりながらも、喜んでいる自分がいる。それを、私も望んでいるから。
「ねぇ、ラビ?」
「ん…?」
「遅くなっちゃったけど、メリークリスマス」
 言って、ラビの顔を覗き込むようにすれば、額に落ちる口付け。仮にも外で何してるの、って言いかけたけれど、やめてしまった。クリスマスだし、ね。
「メリークリスマス、
 少し低めの声で囁いてくれる、その声が心地よくて、思わず目を閉じてしまえば、今度は私の唇をラビのそれが塞いで。その時には、もう、何も言えなくなってしまっていた。


 貴方がいてくれるだけで良い。
 こんな世界だから、貴方に巡り合えた、それ自体が奇跡のようで。
 だから願う。
 来年も、再来年も、こうして、変わらず、貴方とクリスマスを迎えられるように。





あとがき:
どうしても書きたかった、クリスマス夢。
前に小説で親睦会(という名のリナリーの恋人探し)というイベントがあったので、
エクソシストが集まるパーティーというのを書いてみました。
絶対ラビはセクシー系のドレスが好きだ、と思い、嫉妬ネタにしてみました。
自分で着てこいと言ったくせに、実際着せてみればちやほやされてる彼女を見て、
どんどん不機嫌になるラビが良いなぁと思いまして(笑)
ここまでお読みくださり、ありがとうございました(>▽<)
〔2009.12.25〕
BGM by Sowelu 『Wish』