わけわかんねぇ、こんな感情。
 一緒にいたいと思う時もあれば、どっか行けって思う時もあって、このオレが振り回されてる。
 何なんだよ、一体…。


――My song――


「のしん」
「何だよ?」
 何か、改まった雰囲気で言ってくる井上に、思わず不安になる。
 今こいつが見てるのは、出来たばかりの新曲で、正直自信は半々。だから、余計反応が気になった。
 けど、井上が口にしたのは、予想外の言葉だった。
「何て言うか、のしんからラブソングが出てくるとは思わなかったな」
「はぁ…?」
 曲の評価じゃねぇのかよ、と思ったのも束の間で、遅れて井上の言葉の意味に気付く。
「オ、オレだって、それぐらい書けるっての!」
「いや、そういう意味じゃなくてさ…。何か、リアルって言うか、具体的に誰かに向けた歌?」
「ッ…!」
 そこまで言われて、オレもようやく意味に気付いた。
 もしかしなくても、そうだ。それは、あいつのことを想いながら作った曲なんだから。
 今までは、結構影響されてたバンドみたく、アップテンポなやつが多くて、バラードみたく静かな曲には、ほとんど井上から修正が入った。
 けど、
「うん、これ、凄くいいよ。このまま、今度一回合わせてみよう」
「マジで!?」
 まさかの一発OKに、オレもさすがに椅子を蹴り飛ばしてた。ギターを持ってなくて良かったって、後から思った。
「まぁ、なんたって、のしんにしては上出来すぎるくらいの出来だし? ちゃんの前で早く聞かせてあげたいね」
「な、何で、そこであいつの名前が出てくんだよ!」
 予想外の名前に、やけに焦ってしまう。くそっ、カッコ悪ぃな、オレ…。
 とは、確かに仲が良い。
 音楽の話も良く合うし、あいつもライブが好きだって言うから、ライブハウス行ったり、オレ達のライブにも誘ったりした。
 控室に差し入れを持ってきてくれるようになって、そこからメンバーとは知り合ったんだけど、何かそれにむしゃくしゃしてるオレがいるのも確かだ。
 けど、別に、今回の曲はのためとかじゃなくて…。
 そう、言い訳しようとしたら、
「そう? のしんが何とも思ってないんなら、俺がちゃんにアプローチしてみようかな?」
「な…ッ!」
 どこか楽しそうな井上の言葉に、一瞬ギクリとした。
 確かに、メンバーの中では、井上とは仲がいい。井上も気さくな奴だし、あいつも話しかけやすいんだと思う。
 でも、
「ダメだ! ゼッテェダメ!」
 思わず叫んでいたのは、仲良さそうにしている2人の姿を想像してしまったから。が、他の男といるとこなんて、見たくねぇ。
「何だ。わかってんじゃん」
「え…?」
 予想外の井上の言葉に、オレは思わず聞き返していた。わかってるって、何がだよ?
ちゃん、オレに取られたくないんだろ?」
「ッ…!」
 言われて、今までの記憶がフィードバックする。
 確かに、あいつの前では、何でか自然体で歌えた。一緒に出かけたりするのも、あいつから誘われるのも楽しかったし。
 けど、それだけだって、思ってた。いや、思い込んでた。
 そんなことに、他の奴から気付かされるなんて…。

「ハリー!」
 いきなり、聞こえてきた声。
 ギターで何気なく曲を弾きながら昨日のことを思い出していたオレに、その姿はあまりに衝撃的過ぎだった。
「うぉっ、何だ、かよ。どうした? そんな息切らして」
 思わずどもってしまった声。いつものなら、何どもってんのくらい言いそうなのに、今日は苦しそうに肩で息をしながら、全然違うことを言ってきた。
「ギターの音、聞こえたから」
「ッ…!」
 何だよ、それ。
 ギターの音が聞こえたから? それって、オレがいると思ったから、ってことか? にしては珍しい台詞。
 この超鈍感娘の台詞に、始めは驚かされたけど、オレも、いつの間にか自然と笑ってた。
「何だよ、それ。急ぐ理由か?」
「だって、昼休み終わっちゃうじゃない」
 マジで、こいつ、無自覚かよ。こいつのこと、すきだって意識しちまってから、そんな些細な言葉一つに踊らされる。オレと、一緒にいたいのか?
 そう、思ってみたけど、すぐに、じゃなくて、と自分の中で思いっきり否定して目線を逸らした。何つーか、ちょっと寂しそうなその顔、見てられっか。
「バ、バッカじゃねぇの。んなの、放課後待っててやってもいいし、いっそ、5限サボってもいいだろ!」
 いつもなら、サボるなんてダメって言いそうなお前が、黙ったままオレの言葉を待ってる。ほんとに、ほんとに、期待してもいいのかよ。
 思わず言ってしまった独白に、オレ自身が気恥ずかしくなる。どこまで飛躍してんだ、オレは!
 とにかく、弁当箱を持ったまま突っ立てるを放っておけないし、他にいい案も思いつかなくて、いつものように切り出してみる。
「そ、そうだ! まだ時間あるし、聞いてかねぇ?」
「え、いいの?」
「いいのって、オレのギター聞きたくねぇのかよ?」
 わざとらしく、拗ねたように言ってやれば、は全力で首を振る。けど、そんなの口実だ。ただ、の傍にいたい。
「じゃあ、聞いてくれ。only you」
ゆっくり、コードの中の一弦一弦を丁寧に奏でるように、始まった前奏。その全てがへの想いで出来ているんだって思うと、やけに軽やかになった気がした。


 と過ごす時間。
 それが、こんなに幸せだって理由を、井上の言葉がなかったら、気付かなかったかもしれない。
 今のままで満足できなくなったら、オレは、今にも爆発しそうなこの気持ちをに、伝えられるんだろうか。



「何?」
「5限、サボって、オレといようぜ?」
 今選べる最上の選択肢に、は笑顔で頷く。それが、今のオレのベストな選択。


 大すきだ、
 いつか、ちゃんと、この気持ち、伝えるからな。








あとがき:
まだまだ書きたいときメモGS2(>▽<)
今回はちょこっと暖めておりました、
お互いがお互いをすきだと気付くお話のハリーバージョン。
最近、携帯公式サイトのノベライズで井上くん株が急上昇なので、
登場させてみました(笑)
オレ様の割に、繊細な部分があるってところももうちょっと書きたかったんですが、
こんな感じに収まりました☆
ここまでお読みくださり、ありがとうございました(>▽<)
〔2009.11.28〕
BGM by 鈴村健一 『The whole world』