やれることはやった。
最善は尽くしたはず。
じゃあ、他にどうすりゃいいって言うんだよ!
――どん底マイウェイ――
その日、オレもミコトも任務で。けど、帰ってきたのは、たまたま同時だった。
そこから、オレ達はずっと一緒にいて、久し振りの恋人同士気分を満喫してたって言うのに。
『ラビのバカ! 最低!』
ちょっとアレンと話してた隙に、走り去って行ってしまったミコト。日本語で喚くから、一瞬何言ってんのかわかんなかったけど、たまたま隣にいたユウが、珍しく通訳してくれた。
『どうしたんさ? 急に』
『さぁな、日ごろの行いだろ』
んなこと言われたって、思い当たる節はこれっぽっちもない。というより、アレンと2人で任務に出てたミコトに、オレの方が妬けそうだって言うのに。
『そういえば、今回の任務で、随分素敵な女性に会ったって言ってましたよね、ラビ』
と、割って入ってきたアレンに言われ、一気に血の気が引いた。ちなみに、オレはユウと一緒の任務。
『ユウ、チクったさ!?』
『ファーストネームで呼ぶな! それに、オレは聞かれたことに答えただけだ』
いつも通りの不機嫌顔で言うユウに、もう怒る気にもなれなかった。
ミコトの嫉妬深さは知ってる。それに、オレが、いつかブックマンとして、黒の教団からいなくなることを恐れているとも。
けど、バカ、に、最低、は、あんまりさ。
それから、すぐにミコトを追いかけて、説明しようにも、部屋を開けてくれない。それでも、扉の前で話しかけても、うるさいと一蹴。こうなったミコトに、オレはもうなす術はない。
「はーっ」
今日は、厄日か何かか?
思わず、そんなことを思う。けれど、オレがすきなのは、ミコトだけなのに。
「ごめん、ミコト。じゃあ、オレ、行くさ」
もう、それしか言葉が浮かばなくて、ミコトの部屋から離れる。向かった先は中庭。そこには、こんな時期だからか、誰もいなかった。
言うべきことは全部言った。嘘も何もない。
確かに、街で見かけた女の子は、直球ストライクど真ん中だったさ。男としては思わず反応してしまう。ユウに言わせれば、くだらん、で、アレンに言わせれば、ミコトがいるでしょう、だったけど。
そんなん、一番わかってんのはオレさ。
ミコトじゃなきゃダメなんだ。どんなに見た目が良くたって、それがミコトじゃなきゃ意味がない。逆に、見た目に多少難があったとしても、それがミコトなら構わない。って、やっぱ、ミコトもかわいいけどさ。
「何やってんだ、オレ」
思わず独りごちても、誰も答えなんかくれない。もし、応えてくれるとしたら、1人だけ。
「ほんと、何やってるの?」
ベンチの背もたれに身を任せて空を仰いでたオレに、降ってきた言葉。相変わらずぶすくれたままの顔に、思わず笑みがこぼれてしまう。
「やっと来てくれたさ」
「人の部屋の真ん前のベンチに、悠々陣取って、こっちを見られてたら、さすがに出てこざるを得ないじゃない」
やったさ、今度は作戦成功。
そう、心の中で叫んだ。3階のミコトの部屋はちょうど中庭に面してる。八方ふさがりだったオレの、最後の手段だった。
「なぁ、ミコト。やっぱり、オレ、ミコトが大事なんさ」
「でも、今日見かけた人の方が綺麗だったんでしょう?」
にべもなく言われて、それでも、オレは言い淀むことはなかった。本当のことを言うのに、困る必要なんかないさ。
「口では、何とでも言える、って思われるかもしれねぇけど、ブックマンの掟に背いてでも、ミコトの傍にいたい、って、本気で思ったんさ。今も」
「……」
「確かに、綺麗だと思ったさ。それでも、ミコトには敵わないって、すぐに思えてた。今までのオレなら、ありえねぇことさ」
「そんなの、言い訳でしょ」
「かもしんねぇ。それでも、掟に背いても良いって思ったのは、お前だけさ、ミコト」
今度は、体を起して、真っ直ぐミコトを見据える。そっと手を取っても、ミコトはもう逃げなかった。
「愛しちまったんさ。誰にも、何物にも心を移さない、そう誓ったはずの、ブックマンが」
「……」
「ちゃんと、ミコトに伝えたことなかったから、これだけは、きっちり言っときたかったんさ」
それは、間違いなくオレの本心で、ミコトにだから、聞かせられる言葉。これで、繋ぎとめられなかったんなら、諦め……きれねぇだろうけど。
そのまま、どれだけ沈黙が続いたんだろう。気付いた時には、空から雪が降り始めて、そこで、ようやく時間が動き出したように、ミコトが口を開いた。
「………から」
「え…?」
うまく聞きとれなくて、聞き返せば、ミコトはばしっとオレの頭を叩いて。ズレたバンダナも直さずに茫然としてしまってるオレに、ミコトは赤くなった顔で呟いた。
「あったかいコーヒー、淹れるから」
それだけ、聞ければオレには十分で。思わず笑ってしまったら、2撃目が飛んできた。
「ラビ、今日はずっと髪下ろしてて。そしたら、今回はなかったことにしてあげる」
「そんなことでいいんなら、ありがたいさ~」
軽口を叩いて、すっかり冷えた手を握れば、ミコトも握り返してくれる。そういや、髪下ろしてる方がカッコ良いって言われたこともあったっけ。そんなんでミコトの機嫌が直るんなら、お安いご用さ。
「ただし」
言って、ミコトはいったん言葉を切る。手は繋いだまま。足は、ミコトの部屋に向けられたまま。その言葉の続きを待ってると、ミコトがとんでもないことを言ってきた。
「今度別々の任務で他の女の子に目移りしたら、アレンと浮気してやるんだから!」
「何でアレン!? ってか、目移りしただけで浮気って、割にあわねぇさ!」
思わず叫んじまったけれど、ミコトが何か言いたげにこっちを睨んでくるから、思わず返事をしてしまう。そしたら、よろしい、なんて言って、かわいい笑顔をようやく見せてくれた。
ほんとに、一時はどうなるかと思ったけど、ミコトの機嫌が直って良かったさ。今度は、ユウやアレンに口止めしねぇと。
そんなことを思っていると、
「あ、口止め、なんて無駄だからね? アレンは女の子の味方だし、神田は事実しか言わないから。リナリーはもちろん論外」
「う…」
完全に読まれちまってるさ。って、リナリーと一緒の任務で目移りしようもんなら、ミコトに聞かれなくてもリナリーが報告してそうさ。
「了解さ。2度としません」
「よろしい」
そう言って、満足げに歩き出すミコト。今日は、マジで厄日さ。
けど。
「じゃあ、オレが目移りしないように、しっかり一緒にいて、見張っててくれるんさ? ミコトは」
「え…?」
耳元で囁いてやれば、真っ赤になってしまったミコト。オレの部屋はじじいとの2人部屋だけど、ミコトの部屋は完全個室。
「明日は2人とも休みだし、ずーっと一緒にいような?」
わざと声のトーンを下げて言ってやれば、みるみる耳まで真っ赤に染まって。いつの間にか形勢逆転。けれど、ミコトのこういうところが、オレにはドストライクなんさ。
始めはどん底だった今日も、ミコトが居れば簡単に浮上できる。
何て単純な答え。けど、頭使わなくていい分、楽で、居心地がいい。
オレにはミコトだけなんて当たり前で、ミコトにも、本気でそう思ってほしいから。
「愛してるさ、ミコト」
君にだけ囁く、愛の言葉。
あとがき:
唐突に、思いついた作品を、勢いのまま書いてしまいました(汗)
最初は日記のタイトルとして考えていた、この話のタイトルだったんですが、
最近、『D.Gray-man』の総集編を買って、アジア支部の面々のストライク発言に、
思わずのってしまいました(笑)
余裕たっぷりなラビも好きですが、彼女にも振り回されて欲しい、という欲求の表れ?(爆)
なので、ちょっと情けないラビを考えながらも、結局最後はラブラブにしたくて、
こんな感じのお話になりました。
最近はちょっとラビブームが来ている結城です(笑)
ここまでお読みくださり、ありがとうございました(>▽<)
〔2009.12.17〕
BGM by 鈴村健一 『ROBOT』