あの、遠い空に願う。
 どうか、彼の存在が、消えてしまいませんように。


――rainbow bridge――


「まだ起きてたのか?
「ルーク・・・」
 不意に呼びかけられて、ゆっくりと振り返る。そこには、どこかバツの悪そうな顔をしたルークがいた。
「ルークこそ、寝付けないの?」
「まぁな。お前こそ、こんな遅くに何やってんだ?」
「うん、ちょっと、ね・・・」
 言葉を濁してから、空を見上げる。綺麗な星空が広がっていて、吸い込まれそうな気さえした。
 ついこの間までは、バチカルの屋敷にいて、当たり前の毎日を送っていたのに、ふとしたことから、ルーク達と旅するようになって、いつの間にか遠くに来てしまった。それが、いまだに不思議なんだ。
 しかも、今まで当たり前のように一緒にいた幼なじみが、本当はレプリカでした、なんて、信じられないような事実まで知らされて。
「いろんなことがありすぎて、頭の整理が追いつかない、って感じかな?」
「まぁ、な・・・」
 私が苦笑して言ってみれば、ルークも曖昧な言葉を返してくる。一番混乱していたのは、唐突に現実を突きつけられたはずのルークだろうに。
「でも、ルークは、ほんと、変わったね?」
「そうかな?」
 ありきたりな言葉だったけれど、とにかくこの空気を紛らわせたくて、言ってみる。けれど、それは本心だった。
 アクゼリュスの一件があってから、本当にルークは変わったと思うんだ。いろいろなことが一気に起こって、彼の気持ちを動かしたんだと思う。
「何かね、前は、面倒見がいのある弟、って感じだったけど、今は、頼りがいのあるお兄ちゃん、って感じかな」
「弟・・・、お兄ちゃん・・・」
 思ったことを素直に言ってみれば、ルークは何か言いたげな顔で呟く。聞いてみても、ルークは何でもないって言うだけで。
「何でもないって顔してないじゃん」
「マジで何でもないって!」
「嘘、絶対!」
 そのまま、会話はいつの間にか押し問答へ。気付いたら、私達は息を切らせるくらい言い合いをしていた。
「もう、ほんと、ルークの強情なところは変わらないね」
 ついには笑いだして言ってみれば、ルークは、そのまま、私を見ていて。それから、私から目線を逸らすように空を見上げた。
「お前も、そういうとこ変わんねぇよな。何か、ズレてるとこ」
「な・・・ッ!」
 言われて、予想外の台詞に思わず絶句する。けれど、何か反論の言葉を思いつく前に、いきなり抱きしめられた。
「ル、ルーク?」
「ったく、良い加減気付けっての。俺も、もう我慢の限界」
「え、え・・・?」
 混乱した頭で考えようとしても、全然追いついてこない。何で、こんなことになってるんだろう。けれど、ルークの体温が暖かくて、安心していく。
・・・」
「な、何・・・?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「あー、もう、やっぱ無理!」
 言って、ルークはいきなり私を抱きしめる腕に力を込める。唐突なことに、思わず息を詰めてしまったけれど、ドキドキする心音が、今、はっきりと伝わってくる。
「ったく、ガイが行けって言うから出てきたのに・・・」
「へ〜、ガイに、ねぇ。じゃあ、ルークは私のことなんかどうでも良いんだ?」
「バ・・・ッ、そんなこと言ってねぇだろ! 俺はお前が気になったから、こうやって、だな・・・」
 言葉の後半は、さっきまでの勢いがどこにいっちゃったのか、だんだん弱くなっていっちゃって。思わず吹き出してしまったら、片手が離れていって、がしがしと頭をかく音が聞こえた。
「ずっと、好きだったんだよ。良い加減に気付け、アホ」
「そんな告白、あり?」
 照れ隠しの憎まれ口も、何だか可愛く聞こえて。思わずそれを笑ってしまえば、不思議と、私も素直になれる気がした。
「ねぇ、ルーク? 今だから言うけど、私、ルークがレプリカで良かった、って思ってるんだ」
「何でだ?」
「だって、ナタリアの婚約者はルークだけれど、それは、アッシュの方でしょう? だったら、私は、ルークのこと好きでいて良いよね?」
 言ってみれば、息を飲む声が聞こえて。また、両手でしっかり抱きしめてくれた。
「当たり前だろ。誰にも、遠慮なんかすんなよ」
「うん、ありがと」
 ずっと、隠してきた想い。けれど、ようやく、ここで形に出来たから。私は、この夜のこと、絶対に忘れないよ。


 貴方と出会ってから、たくさんの時が過ぎた。
 私達も、たくさん変わった。
 けれど、この想いは、変わりませんように。







あとがき:
ついに、書いてしまいました。
最近のアビスブームにのっとった、ルーク夢でございます。
久々の更新も、夢でしてしまいましたが。
断髪ルークがかわいくて仕方がない今日この頃。
結城にはやっぱり弟みたいな感じのルー君です。
〔2009.2.15〕
BGM by 榎本くるみ 『冒険彗星』