今日はなんか調子がつかない。
一日中ぼーっとして、ものすっごく眠くて瞼がくっつきそうだ。
何度も壁に激突するし、もう少しでぶつかる所を隣に居た梓が手を引いてくれてそれを間逃れたのも数回。
その度に、お前大丈夫か?そう心配そうな梓の声がかかったけど、その度に大丈夫って返しておいた。


ようやく訪れた春のぬっくぬく陽気が気持ちよくて、ものすごく眠気を誘う。
昨日は発明を夜遅くまでやってたから、多分それの所為で余計に眠いだけだから。
にっと笑い返して、一日中そんな意識が飛びそうな状態で過ごした放課後。

大好きな生徒会に足を運んで、さっそく発明に明け暮れようとラボへと入る。
発明途中だった物を手にして、半田ごてを手にするものの、肝心の回路がよく見えない。
ゆらゆらと水の中を漂っているように、定まらない視界に頭を振って見るけど、結果は同じ。




「ぬー……ぬーっ!」
回路を睨みつけて、なんとかそれと格闘してみるが、半田を溶かすんじゃなくて自分の手が火傷しそうになったので仕方なく断念する事にした。


「ぬぬ〜ん……」



目を擦りながら、早々とラボから出たけど、生徒会室は俺以外誰もいなくて、とっても静かで変な感じだった。
いっつも、そらそらもぬいぬいも、そしてが居るから。
紙の束が擦れる音、ペンが紙の上を走る音、皆の声がするのに……。



変、変……。


心がぎゅっとして、ぬっくぬくで暖かい春のはずなのに、背筋が寒い気がして。


「……変なの」



一人になんか、慣れてる……はずなのにな。




長い革張りのソファへと腰掛けて、ぼんやりしながら天井を眺めた。
「誰か、早く来ないかな……」
ぬいぬいでも、そらそらでもどっちでも良いから。
でも、が来てくれたら、一番うれしいな。
俺まで嬉しくなるような、あの笑顔が見たい。
ぱたりと横に倒れると、頬にソファの生地の感触が当る。


「早く……来て」
目を瞑って、小さく呟いた。










どこからか、やさしいメロディが聞こえてきた。
それは、泣きたくなるような歌で。
聞き入った俺はしばらく、その歌をずっと聞いていた。
そして、頭に触れる何かの感触。それはそっと撫でては離れ、また同じ所を触れてきて、なんだか安心する。
誰だろう。
「ぬ……ぬ?」
ゆっくり瞼を押し上げると、同時に音がぱたりと止んでいった。もっと聞きたかったのにすごく残念で、もう一度目を瞑ろうとしたけど。
目の前にの顔が映って、眠気も何も醒めてしまった。
俺の顔を覗き込んで、見たかったあの笑顔を見せてくれて。
「おはよう、翼君?」
「うぬ……ぬ??」
革張りのソファに横になっている俺。そして、そのすぐ隣にが座っていた。
「疲れてたのかな?」
「ぬ?」
「一樹会長も、颯斗君も何度か声を掛けたんだけど、全然起きなかったから」
「うぬ。ちょっと……眠かったから」
心配そうに俺を見てくるを安心させようと、俺は起き上がった。
窓から見えるその景色は、今にも太陽が沈みそうで、生徒会の中は薄暗かった。
「……皆は?」
首を巡らせてみるものの、俺と以外誰も居なくて静かだ。
でも、俺しか居なかったあの生徒会室みたいに、寒くなくて。
が居るだけで、心が温かくなった。
「あはは。もう帰っちゃったよ。私は戸締りを頼まれたから」
「ぬ〜ん……もしかして、俺が起きるの待っててくれたのか?」
「うん。気持ちよさそうに寝てたから」
「ごめん……ちゃい」
小さくなって謝る俺に、そっと手を伸ばしは俺の頭に触れて撫でた。
「いいよ翼君。今日は色んな所に行ってて、翼君ともお話出来てなかったからね」
「…………」
そう言って、やわらかな笑顔を見せたは、ゆっくりと俺の頭から手を退けた。
「翼君、帰ろう?」
少しも俺を責める様子もないは、傍にあった鞄を持つと、鼻歌を歌いながら立ち上がった。
そのメロディはさっき聴いた、あのメロディだ。
、その歌……」
「……あ、これ?昔お母さんがよく口ずさんでた子守唄なんだけど」
恥ずかしそうに告げるに、相槌を打つ。
「翼君がぐっすり寝てるのを見てたら、なんか自然と声に出てて」
歩き出した月子を眺めながら、さっきのメロディを思い出す。
あまりに、綺麗でやさしいメロディだったから。


寮までは色んなことを話して、の寮を前にして俺たちは別れた。
でも、俺の頭の中にはさっきの子守唄がずっと流れてて。
それは、夜、ベッドへ入って眠る直前まで続いた。
優しい声音が、耳をくすぐり。
どこまでも心地が良いそのメロディに……俺の視界は歪んでいく。
頬を流れていった熱い雫。それは、止まる事無く俺を戸惑わせる。


どこまでもぬっくぬくと温かくて、優しい
本当はあの時、を抱きしめたかった。


……なんて、俺にはそんな資格無いけど。
の笑顔がいつも傍にあったらって、いつも考えて止まない。


瞼を閉じて、流れる液体に蓋をすると、いつしか涙は止まっていった。
でも、耳をふさいでも、いつまでも止まないメロディ。






……ほら、俺の中で聞こえるよ。




君のやさしい子守唄が、耳から離れない。











目と耳をふさいだ楽園






あとがき:
koiaiのむむからいただきました!
掲載、遅くなってごめんなさい(>_<)

もうね、この、弱った翼くんにドキドキさせられっぱなしです!
何で可愛いんだ!
抱きしめてあげたくなります!^^
それでは、ここまでお読みくださり、ありがとうございました(>▽<)
〔2010.6.6〕
2010.03.22 むむ