同じ歩幅で、ゆっくりと歩く
 いつもの海岸線通り
 君と2人なら、退屈な時間なんてない
 いつまでも一緒にいたいから
 ずっと、傍で笑っていてくれ


――そのスピードで――


 放課後、誰もいなくなった音楽室で、ギターを手に、新曲を披露する。今じゃ、それが当たり前の光景になってた。
 オマエは、黙って、目を閉じて、オレの歌を聞く。それが、妙に気恥しくもあったけど、今じゃすっかり慣れちまってた。
「つー感じだ」
「お〜」
 声は間抜けそのものだけど、それがオマエの表現だってのは、ちゃんと知ってる。けど、もうちょい何かあるだろ。
「相変わらずだな、は。何か感想を言え」
「だって、何か、感じ入っちゃって、言葉にならないんだもん」
 そう言って、はにかんだように笑う。くっそ〜、この笑顔にやられた時点で、オレ様の負けだ。
 こいつには『only you』や他にもいろいろラブソングを聞かせてやった。もちろん、オレが目指してるものとはちょい違う感じがするから、全部ラブソングってわけにはいかねぇけど、に出会う前よりは格段に多くなった。井上の奴もうるせぇし。
『いやぁ、ちゃんへの愛が滲み出てるね』
 んなことを言って、井上はオレを茶化すけど、当の本人は全く気付いてねぇ。
 そりゃあ、ラブソングを書く作詞家が、全員誰かのためにささげてる、なんて思ってねぇけど、こんだけ歌ってやってんのに気付かねぇって、どんだけ鈍感なんだよ。
「はい、コウ」
「あ?」
 急に呼ばれて、差し出されたのは、なぜかマーブルチョコレート。思わず手を出しちまったら、はいくつかオレの手の上に乗せて、満足そうに笑った。
「何だよ」
「いっつも良い曲聞かせてくれてるお礼。こんなんじゃ、安いかもしれないけど」
 そんなことを言って、笑いやがる。安い、なんてもんじゃねぇ。安すぎだっての。
 
 自覚したのは、いつだったか。
 おんなじクラスでもないこいつを、オレはいつの間にか探すようになってて、創る曲も、自然とラブソングが増えていった。
 曲の中ではいつだって愛を叫んでるのに、本当の気持ちをに伝えようと思うと、なんつーか、言葉にならねぇ。ほんと、ぐちゃぐちゃだ。このマーブルチョコみたく、いろんな色がある。
 すき、だけじゃなくて、やっぱ、たまにはムカつく時もあって、傍にいてほしい時もあるのに、1人になりたい時もある。ほんと、わけわかんねぇ。

「なぁ、
「何?」
 今、ここには誰もいなくて、オレとの2人きり。よく考えてみれば、良い状況とも言えるし、嫌な状況とも言える。
 何度も言いかけた、オマエがすきだって。けど、その度に、踏みとどまる。は、オレをどう思ってる? それ以前に、オレは、と並んで歩くのにふさわしい奴になれてるのか?
「いや、その、何でもねぇ」
「変なコウ」
 そう言って、笑ってみせる、そんなの表情を、何度見たことか。それだけ、何回も踏みとどまってるってことだよな。
 正直、この関係も悪くねぇって思ってる。遊びに誘えば、ほとんど誘いを断らねぇ。一緒にいたいからって、帰る時間を惜しんでも、はいつだって一緒にいようって言ってくれてたんだ。
 こんだけボケボケのやつに、すきなやつが出来ればゼッテェ気付く。今はその気配もねぇし、心配はいらねぇけど…。
「コウ…?」
「うわっ!!」
 急に顔をのぞきこまれて、ギターを落としそうになる。あっぶねー、いくらすると思ってんだよ。って、そうじゃなくて!
「顔、近付けんな!」
「嫌?」
「嫌とかじゃなくて…、心臓に悪いんだよ」
 ったく、男ってもんをまるでわかってねぇな、こいつは。って、んなこと思うのもスッゲェ今更だけど。
「ねぇ、コウ?」
「あ?」
「リクエスト、良い?」
 これも、いつしかお決まりの台詞になっていた。どんな曲を聞かせてやったって、喜んで聞くくせに、ゼッテェせがんでくる。
「わかってるよ、で?」
「う〜ん、今日は『only you』かな?」
「へぇ、にしちゃあ珍しいじゃん」
 確かに、好きな曲だとは言ってたけど、最近リクエストがなかっただけに思わず驚く。けど、もっと驚かされんのはこの後だった。
「うん、折角の私のためだけに歌ってくれてるんだし、それなら、って」
「ッ……!」
 暴言、っつーか、これ、殺し文句だろ、ゼッテェ!
 そう思ったけど、ギリギリのところで口には出さなかった。くっそ、ほんとわけわかんねぇ、は。
 でも、
「んじゃ、いくぜ」
 一呼吸おいて、確かめるようにギターのコードをなぞる。きっと、これが、オレ達のちょうど良い関係なんだ、きっと。
 オレ達は、オレ達なりの速さで歩いて行けばいい。


 君に伝えたいのは、オレの、本当の想い
 君のように自由に笑えるようになったら
 君のように、素直な気持ちを口に出来るようになったら
 きっと、伝えよう
 オレの、本当の気持ち。






あとがき:
タイトル通り、不意に思いだした曲をもとに書いてみました。
若干玉砕した感が無きにしも非ず、みたいなとこはありますがσ(^◇^;)
ときメモの醍醐味は、やっぱり卒業式に告白を受ける、ですから、
それにのっとったハリー→ヒロインを意識したものの、デイジー設定は難しいですね(^^;;

作中に、『only you』が好き発言がありますが、もちろん、好きなのは結城です(爆)
だって、歌ってほしいもん、という願望を織り交ぜた作品になりました。

ここまでお読みくださり、ありがとうございました(>▽<)
〔2009.12.7〕
BGM by the brilliant green 『そのスピードで』