この、あたたかな感情は何?
 胸を締め付けられるように苦しいのに、傍を離れたくなくて。
 私、どうしちゃったの?


――わがままな手――


「それは、恋じゃないかしら?」
「コイ…?」
 昼休み、何気ない話題の中で口にした本音を、密さんはそう分析したらしかった。唐突な話題で、変換がついていかない。けれど、密さんはにこにこ顔、私は思わずミートボールを突き刺したフォークを持ったまま呆然。
「恋って、あの…?」
「うん、池の、なんてオチはなしね? 高校生なんだもの」
 にこやかに笑ってみせる密さんに、それでも私の思考は停止中。
 あれ? 私ってこんなに鈍感だったって思うくらい。
「あの…、誰が?」
「もちろん、さんが」
「誰に…?」
「針谷くんに」
 改めてその名前を聞くと、頬が一気に紅潮していく。それを見て密さんは、あらあら、と笑った。
 だって、ハリーは、バイト先も一緒で、音楽の話もよく合って、クラスは違うけど、一緒に帰ることも多くて、けど、それだけだった。
 うぅん、それだけのはずだった。
「わかっちゃった?」
「……」
 くすくす笑う密さんに、私はきっと顔を真っ赤にしてるはず。
 だって、思えば、ハリーのライブでの真剣な姿や、私のために歌ってくれる姿、一緒に行ったボウリングやカラオケ、楽しかった思い出も、喧嘩した思い出も、全部大事で。
 ハリーのことを思い出すと、自然とあっかい気持ちになれる。ずっと、忘れていた感覚。
「あ…」
 何気なく、耳を澄ませば聞こえてくるギターの旋律。そんな私に、密さんは相変わらず笑ったまま。
「行ってきたら? 針谷くん、でしょ?」
「え…?」
 言われて、私は思わず聞き返してしまう。けれど、笑顔で送り出そうとしてくれてる密さんに、私は少し勇気をもらった気がした。
「うん、行ってくる」
 慌ててお弁当箱を片付けて、気づけば走り出していた。
 早く会いたい、そんな気持ちが先走っていって。
 長い長い、音楽室までの道のり。待ち遠しくて、一気に戸を開けていた。
「ハリー!」
「うぉっ、何だ、かよ。どうした? そんな息切らして」
「ギターの音、聞こえたから」
 ほんとは、ハリーがいると思ったから、何て言えなくて、思い付いたことを言ってみる。そしたら、ハリーは最初驚いた顔をしていたけれど、すぐに吹き出して笑った。
「何だよ、それ。急ぐ理由か?」
「だって、昼休み終わっちゃうじゃない」
 そしたら、別のクラスのハリーとは、放課後まで会えなくなっちゃう。放課後も、会う約束はしてないから、バンドの練習で帰っちゃうかもだし。
 そう、思ったことを言ってみたら、ハリーは一瞬驚いた顔をして、すぐに目線を逸らした。心なしか頬が赤い。
「バ、バッカじゃねぇの。んなの、放課後待っててやってもいいし、いっそ、5限サボってもいいだろ!」
 サボるのはダメ、って言いかけたけど、ハリーとなら、って思ったら、言えなくなっちゃった。それに、放課後待っててくれるなんて嬉しいし。
 そのまま、妙な沈黙が流れる。
 ギターを抱えて座り込んだままのハリー。お弁当箱を持ったまま立ち尽くした私。
 そんな中で先に口を開いたのはハリーだった。
「そ、そうだ! まだ時間あるし、聞いてかねぇ?」
「え、いいの?」
「いいのって、オレのギター聞きたくねぇのかよ?」
 どこか拗ねたようなハリーの言葉に思わず全力で首を振る。けど、そんなの口実だ。ただ、ハリーの傍にいたい。
「じゃあ、聞いてくれ。only you」
ゆっくり、コードの中の一弦一弦を丁寧に奏でるように、始まった前奏。私も、自然のハリーの前に座って、その繊細な音に耳を傾けていた。


 ハリーと過ごす時間。
 それが、こんなに幸せだって理由を、密さんの言葉がなかったら、気付かなかったかもしれない。
 今のままで満足できなくなったら、私はこの気持ちをハリーに伝えられるんだろうか。



「何?」
「5限、サボって、オレといようぜ?」
 どこか照れ笑いのような表情を見せて、誘ってくれるハリーに、私はすぐに頷いていた。


 大すきだよ、ハリー。
 いつか、ちゃんと、この気持ち、伝えるからね。








あとがき:
まだまだ書きたいときメモGS2(>▽<)
まず最初に思いつき、温めいた作品、
鈍感ヒロインがハリーをすきだと気付くお話のヒロインバージョン。
ハリー版もあるのですが、おんなじように、女子キャラで一番好きな密姉さんを出してみました☆
女子キャラで一番好きな密姉さんを出してみました☆

もう、プレイヤーがびっくりするくらい鈍感な割に、告白シーンでは「ずっと好きだった」って台詞もあり。
なので、実は途中で気付いてるんだけれども、台詞から自分が好かれていることに気付いていない、と。
どっかのホスト部的進行ぶりですねσ(^◇^;)
そういや、声優さんもカブってるよ(爆)

ともあれ、ここまでお読みくださり、ありがとうございました(>▽<)
〔2009.11.28〕
BGM by 鈴村健一 『only you』