雪の季節がくると、不意に思い出す。
 貴方と過ごした、大切な日々のこと。
 みんなで騒いで、2人きりの時には極上の愛をくれる。
 私にとっては、かけがえのない人。
 きっと、この思い出はいつまでも忘れない。


――雪景色の中で――


 冬と言えば、雪。
 そんな考え方、安直かもしれないけれど、彼と過ごした大切な思い出は、雪景色を見る度に思い出されて。今は、ほんの少し切なくもなるけれど、楽しかった思い出の方が多いから。
「うぬぬ〜、、何考えてるんだ?」
 私が窓の外を見ていたからかもしれない。翼くんが、不満げな声を上げて、私の隣に立つ。手には、ロボットのようなものがあった。
「新しい発明品?」
「そう、今度は自信作なのだ! これでそらそらに怒られても怖くない!」
 そう自信満々に言う翼くんだけど、そもそも颯人くんに怒られないようにしてれば良いんじゃないか、なんて思ったけど、口に出しては言わなかった。
 一樹会長が卒業して、もうすぐ1年になる。あの時、2年だった私達も、今は3年。あの時の一樹会長のように、私も、星月学園から卒業する日が近づいていた。
?」
 呼ばれて、気付いた時には、後ろから抱き締められていた。私よりも、ずっと背の高い翼くん。こういう時は、男の人だって、実感する。
「ど、どうしたの? 急に」
 心臓が、急に早い鼓動を刻む。いつまで経ってもなれない不意打ちは、彼の得意とするところ。
 いつもだったら、照れる私をからかってくる翼くんだけど、今日はそんなことはしなかった。その代わり、優しい声音で囁いてくれる。
、今日は何の日か知ってる?」
「え…?」
 唐突に聞かれて、私は思わず聞き返してしまう。けれど、窓に映る翼くんは、笑顔で続きを促した。
「ほら、良いから、答える!」
「えと、翼くんの誕生日、です」
 忘れるわけがない。
 去年は、一樹会長に聞くまで知らなくて、それでも何とか間に合わせた、サプライズプレゼント。一樹会長と、颯人くん、私と翼くんの4人で誕生日をお祝いしたんだけれど、私からのプレゼントは何にも用意できてなくて。そんな私に、翼くんは、彼女からしかもらえないものが欲しい、って言って、初めて、キスをした。
 今年は、ちゃんと覚えていたから、今度は生徒会のメンバーでお祝いして、今はこうして、2人きりになってから、誕生日プレゼントを渡した。星座盤のように綺麗なデザインの、腕時計。それを、翼くんは凄く喜んでくれて、今も早速身につけてくれている。
「なぁ、?」
「な、何…?」
 不意に低められた声が耳元でして、ドキドキが止まらない。いつまで経っても「カッコ良い翼くん」には慣れなくて、男の人ってことを意識させられる度に、心臓がもちそうにないくらい。
 けれど、そんなの、とっくに翼くんにはバレている。それでも、彼は、構わず言葉を続けた。
「今年は、とそらそらが、卒業しちゃうんだな」
「……」
 言われて、私は何も言えなかった。
 次の生徒会長は、颯人くんの跡を継いで、翼くんがなることになった。着々と進む、卒業へのカウントダウン。それを淋しく思うのは、去年も今年も一緒だった。特に、残される翼くんにとっては。
「けど、俺、ぬいぬいの時みたいに、無理なことは言わないよ。ただ、君と、今みたいに会えなくなるのは寂しいから…」
「ッ…!」
 急に、翼くんが腕の力を緩めたと思ったら、向い合わせにされて、気付いた時には口付けられていた。
 触れ合わせて、すぐに離れたけれど、ふっと翼くんが笑ってみせて、また口づけられる。何度も、何度も。そうなったら、私は、もう、翼くんに身を任せることしか出来なくなっていた。
 それから、どれくらい時間が経っただろう。
 呼吸が苦しくなってきて、それを翼くんに訴えれば、ようやくって感じで、離れて。そしたら、いつもの笑顔を見せてくれる。
「ぬはは、やっぱ、全然足りないや」
 そう言う翼くんは、無理に笑ってる感じなんか、全然しなかった。おばあさんのこととか、一樹会長のこととか、いろいろなことを乗り越えて、今の翼くんがいる。私も、それを知ってるから。
「去年も、誕生日プレゼントって言って、いっぱいキスしたのにな。のことになると、俺、歯止めがきかなくなりそうだ」
「翼くん…」
 何だか、その言葉が嬉しくて、私は自分から翼くんに抱きついていた。そしたら、翼くんは、いつもみたいに、私を甘やかしてくれる。彼は、自分が年下で、早く大人になりたい、なんて言って気にしていたけれど、こういう時は、私の方が子供みたいだ。
、今年は、誕生日プレゼント、もらったけど、もう1個、もらってもいいか?」
「え…?」
 唐突に聞かれて、思わず聞き返してしまう。そしたら、翼くんは、例のぬはは笑いをしてみせて、答えをくれた。
「約束。が卒業しちゃっても、休みの度に、会いに行きたい。ぬいぬいの時みたいに、長期の休みの時じゃなくて、俺達が、会いたい、って思った時。の声が、聞きたくなって、電話じゃ足りなくなった時。そんな、約束が欲しい」
「翼くん…」
 あぁ、やっぱり、彼は変わってない。そんなところで、実感する。
 過去に辛い思い出を持ったまま生きてきた翼くん。一樹会長や、おばあさんとちゃんと向き合って話して、成長したけれど、その分、大切な人を守るっていうおじいさんとの約束を、彼なりに果たそうとしてくれている。
「もちろんだよ。また、翼くんのおばあさんにも会いたいし」
「ほんとか?」
 私が笑って頷けば、すぐに翼くんの表情が明るくなる。心からの笑顔が見られる、それが本当に嬉しくて。
「約束、ね?」
「うん、約束、だ」
 そう言って、小指を絡め合う。そしたら、何だかおかしくて、2人して笑ってしまった。


 雪が解ければ、春が来る。
 ほんの少しの間、翼くんとは離れてしまうけれど、きっと、この気持ちがある限り、この約束がある限り、私達は、負けたりしない。
 心から、そう思うんだ。

「あ、そうだ、
「何?」
 また、思い付きみたいに、不意打ちの口付け。それから、いたずらが成功した子供みたいに笑ってみせて、とんでもないことを言う。
「俺が卒業したら、いつか、を貰いに行くね?」
「ッ…!」
 少し低めの声で囁かれて、きっと、私はまた耳まで真っ赤。そんな私を見て、翼くんは満足そうに、ぬはは、って笑うんだ。
 翼くんが、その言葉をどういう意味で言ったか私が知るのは、まだ少し、先の話。





あとがき:
ほんまに、ギリギリになってしまいましたが、翼誕生日祝いです;;
今回は、ゲームネタバレ要素満載で書いてみました。
何気に、ゲームの中で、みんなでサプライズプレゼント&2人きりでキスのプレゼントって言う、
あの一連の誕生日ネタがすきなので、それを踏襲しつつも、って感じのお話になりました。
あの後、おばあさんの問題が浮上してくるので、暗い方向に話は行ってしまうのですが、
それもひっくるめて、乗り越えてきた翼くんは大すきなのです(^_^*)♪
何はともあれ、翼くん、誕生日おめでとうございます!!
ここまでお読みくださり、ありがとうございました(>▽<)
〔2010.2.3〕
BGM by 鈴村健一 『and Becoming』