トンネルを抜ければそこは、雪国だった。
 私も好きな、川端康成の小説の一節だ。
 自分で言うのも何だけど、私は文学少女で、夏目漱石も森鴎外も志賀直哉も、結構読んだ。川端康成も勿論好きだし、三国史や南総里見八犬伝みたいな話も好きだった。
 ちなみに、日本史も大好きで、大河ドラマは欠かさず見ていた。
 けど、まさか、そんな自分が好きな小説の一節のように、自分の好きなドラマのような世界の中に飛び込むことになろうとは、思いもしなかったんだ。


――暮れない夕焼け――


 雪がちらほら舞い始めるこの季節。思わずストーブの前で丸まってみたり、こたつであったまったりしたいとこだけど、この時代にそんなものはない。
 あるのは、囲炉裏と大すきな人のぬくもりだけ。
「で、ここは奥州?」
「あぁ、独眼竜、伊達政宗が治めてるとこだ」
 言いながら、大きな手が東北を指差す。これは歴史の授業でも習ったことだけど、やっぱり、事実は小説より奇なり、ってやつで、いろいろな発見があっておもしろかったりする。
 私が戦国時代に来て、こうして前田家にお世話になって、もうどれくらいの時間が経っただろう。始めは、あんなに帰りたいと願っていたのに、今ではそんな気もとっくに失せた。それは、帰り方がわからないっていうのもあるけど、何より、すきな人が出来てしまったからなんだ。今では、慶次の膝の上が私の特等席。
「寒くないか?
「うん、慶次があったかいから。ほんと子供体温だね?」
「どうせ俺は子供だよ」
 私が笑いながら返したら、慶次は拗ねたように言う。ほんと、おっきい子供だ。体はこんなにおっきいのに、心はどこまでも純粋で。けれど、私を包み込んでくれる優しい手は、間違いなく男の人のそれ。
 戦国時代に来て戸惑っていた私を、助けてくれた人。この人なら大丈夫って思えたから、私は慶次についてきた。けど、慶次の真っすぐさに始めから惹かれていたのかもしれないなんて、今ではそう思う。

「何?」
 聞かれて顔を上げれば、不意に口付けられて。軽く触れて離れた後、慶次は清々しいくらいの笑顔で言ってきた。
「今度、どっか行こうぜ。どこだって良い、が行きたいって思うとこ全部」
「え…?」
 唐突に言われて、思わず聞き返してしまう。まさか、そんなことを言われるとは思わなくて。けど、私もこの時代の各地を見てみたいし、何より慶次と一緒に旅してみたい。あ、でも、お金はどうするんだろ? やっぱり、歩いていくのかな?
 そんなことを思って黙ってたからかもしれない。不意に、慶次が私の髪をすくように撫でてくれる。それにつられるように顔を上げてみれば、慶次はにって笑ってみせた。
「命短し人よ恋せよ、ってね。人生楽しまなきゃ損だろ? 俺は、もう欲しいもん手に入れちまったから、次はの願を叶えてやるよ」
「慶次…」
 その言葉が嬉しくて慶次に抱き付けば、彼も優しく抱き留めてくれる。それから、は相変わらずちっせぇな、なんて言ってくるんだけど、耳元で囁かれるのが心地良くて、結局何も言えなかった。
 慶次が一緒なら、どこでも行くよ。今の私の存在理由は、貴方の中にあるから。
 貴方は、絶望の中で光を与えてくれた人。私に、生きる意味をくれた人。貴方が望むなら、私はいつまでも貴方の傍にいるからね? 暮れることを知らない、貴方だけの太陽でいられるように。







あとがき:
先の二つから間が空いてしまいましたが、
初BASARA夢となる作品です。
いつまでも、このまま何もなしで放置するわけにいかないですしね(苦笑)
でも、何か、慶ちゃんを書いてると楽しいです。
案外、合ってて書きやすいのかもしれない、と思いつつ。
この調子で、慶次夢をもっと増やせていきたいところです。
それでは、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
〔2007.1.13〕
BGM by Aqua Timez 『千の夜をこえて』