言葉にすることは、難しいと思った。
 言いたいこと、知っていてほしいことはいっぱいある。伝えたい気持ちが、山ほどあるんだ。でも、それが繋がらない。何でかな? 心が苦しいんだ。
 嫌われたくない。それだけが先走るよ。


――空虚。――


「それでですね、ようやくお母さんも家に帰って来られたんです」
「へぇ、そうなんだ」
 私の言葉に、翠先輩は頷きながら聞いてくれた。でも、その台詞に、ほんの少しの胸の痛みを感じた。
 何気ない言葉。別に、翠先輩には何も求めていないつもりだった。話を聞いてくれるだけで充分だって、そう思ってたはずだった。けど、つい、それ以上を望んでしまう。もっと笑って。もっと楽しんで。そう思ってしまうのは、私の我が儘だろうか。
「先輩、あの、ご気分はどうですか?」
「え? あぁ、体調のこと? 大丈夫だよ、そんな重病人じゃないんだから」
 ほら、また。貴方は、そうやって笑うの。
 顔色は良いから、たぶん仕事か課題やってて寝不足で、ってとこだろう。けど、そういう優しさ、私には…。
「先輩、すみません。ちょっとお手洗い行ってきますね?」
 そう言い残して、部屋を出る。
 わかってる。空気を重く感じてるのは自分だけ。わかってるよ。でも…。
 前にお母さんが言ってた。恋愛と友愛の気持ちは同じもの。ただ違うのは、友達にしか出来ないこと、恋人にしかできないことがあるんだって。私には、この気持ちが恋愛か友愛かなんてわからない。ただわかるのは、先輩に笑っていてほしいってこと。
「明香莉」
 呼ばれて、私は思わず振り返ってた。そこには、苦笑まじりの、大好きな先輩の姿。
「仕事終わったら、ケーキ食べに行こうか?」
「え…?」
 意外な先輩の言葉に、思わず聞き返す。そしたら、先輩は笑顔を見せてくれた。
「ぼくからみれば、明香莉の方が元気なさそうだけど、随分心配してくれたみたいだし。一緒に食べに行ったら、元気かどうかわかるだろ?」
「何ですか? それ〜」
 先輩の言葉に笑ってしまったけど、本当はその言葉が一番嬉しかった。
 元気だから大丈夫、じゃない。
 心配させてごめん、じゃない。
 私は、そんな言葉欲しくないから。ただ、貴方に、私と同じ気持ちでいてほしいだけ。
 だから、淋しくなった時は、貴方のその笑顔と、ほんの少しの優しさをください。





あとがき:
日記に上げた、2周年記念の小説のうちのひとつです。
明香莉の心情は、結構微妙な位置づけだったりするので、書きがいがあります。
そして、結構この話の中ではテンション高めのキャラだったりするので、
割とやりたい放題やってくれますしね(笑)
なので、ここはあえてシリアスで。
何だかんだで、翠が大切な人には変わりない、というお話です。
〔2006.5.6〕