来た道を引き返し、一度庁舎に戻る。そのことを疑問に思ったのか、翠が怪訝な顔で言ってきた。
「このまま行かないのか?」
「あぁ。これ、先に課長に渡してから、と思ってな」
 言いながら、敦郎は先刻高斗から預かっていたメモリーチップを翠に見せる。一応は課長に頼まれて行ったのだから、先に渡しておくべきだろう。
「んじゃ、ぱっと渡してくっから、お前はここで待ってろよ?」
「え、あ、敦郎…っ!」
 戸惑ったような声を上げる翠を残し、敦郎はダッシュで庁舎に入る。翠を待たせたくないのと、あの物体の正体が気になって気持ちがはやる。
――あ、ちゃんと戻っとかねェとな。
 途中で、最初に特捜S課に入った時に素の姿だったのを思い出し、敦郎は向きを変える。だが、すぐに通い慣れた道に戻って、扉を開けた。
「課長、これ、高斗から預かった情報です」
 耳慣れた少し高めの声で言って、柊一はメモリーチップを響一に手渡すと、そのまま踵を返す。その行動の素早さに、2人とも口を開く間もないまま。
 遠くの方で明香莉が呼び止める声が聞こえた気がしたが、とりあえず今は聞かなかったことにして歩を早めた。
「よしっ、じゃあ行くぞ、翠!」
 外に出るや否や、柊一は翠から物体を受け取ると、そのまま走り出す。始めはそれに呆気に取られていた翠だったが、すぐに後を追ってきた。
「何でわざわざ走ってくんだよ?」
「変わるのが面倒だったんだよ。それに、大した距離じゃねェだろ?」
 言いながら、2人共走るスピードはゆるめない。逸る気持ちがあるのは、2人共一緒だった。
 そのまま、どれだけか走って、柊一達は物体が元あった現場に辿り着く。
 元々運動能力が高い超人類である2人だ。滅多なことでは息は上がらない。だが、気持ちは簡単に落ち着けなかった。
「犯人というか、持ち主というか、それっぽい人、見当たらないね?」
「あぁ。さすがに、こんなちゃちな仕掛けじゃ犯人も現れないってこと…」
 翠の言葉に頷きかけて、柊一は言葉を止める。携帯電話が着信を告げているのだ。バイブレーターが作動しているそれを取り出し、柊一は相手を確認して電話に出た。
「どうした? 明香莉」
"どうした、じゃないですよ。翠先輩にもかけたのにお2人共出てくださらないですし"
 言って、明香莉は拗ねたように唇を尖らせる。テレビ電話だと相手の顔も見られるから、よく表情の変わる明香莉と電話するのは面白い。だが、今は面白がっている場合ではないだろう。
「それで、そんな慌ててかけてきたってことは、事件か?」
"いえ。柊一さん達が持っていたものの正体が解ったんです。それ…"
「あーーーっ!」
 明香莉の声を遮って、突然叫び声が上がる。それに気付いてそちらに目を向けてみれば、そこには1人の少年が立っていた。
「良かったぁ。刑事さん達が見つけてくれてたんだね? ありがとう」
 言って、彼は呆然としている柊一の手から物体を受け取る。そして、2人の目の前で、彼は慣れた様子で物体のある1点を叩く。すると、
「か、亀…っ!?」
 にゅっと現れた手足に、柊一と翠が声を上げる。2人がどれほど叩いても顔を出さなかったのに、だ。少年いわく、どうやら叩き方や場所にコツがあるらしい。そのまま、彼は頭を下げ、自宅のある眼前のマンションのエントランスへと入っていった。
"は〜、あの方が飼い主だったんですね。実は、さっき遺失物係に届出があったそうで…"
 いまだ通じていた電話口の向こうで明香莉が懸命に説明していたが、もはやそれは2人の耳には届いていなかった。半眼で、乾いた笑みを浮かべながら、柊一が小さく呟く。
「なぁ、俺、今日仕事に戻らねェで帰って良い?」
「……」
 いつもなら彼のこんな台詞に怒鳴ってくる翠だが、今日は似たようなことを思っているのか、疲れきっているような表情を見せていた。ただ、公職である彼らに、そんなことが許されるはずもなかったが。
 ともあれ、今日に限って様々な人に出会い、例の亀のことについて話したことを後悔するのは、まだ先の話である。





あとがき:
長らくのお付き合い、ありがとうございました。
ということで、中編、やっとこさ終わりです。
くだらないオチでごめんなさい;;
こんな感じしか思いつきませんでした(爆)
で、実は、タイトルの中にヒントが隠されていたの、気付かれた方いらっしゃるでしょうか。
ちょっと空白の部分を作っていたのがミソのつもりだったんですが。
何の脈絡もないタイトルのようでしたが、空白がある単語のそれぞれの頭文字を取って行くと、
「Kimiga Ayumu Mitino Eikou」で、「KAME」になる、と。
引っ張るには過ぎたネタだったかもしれません;;
〔2005.10.12〕
BGM by 175R 『Melody』