plastic ほどけた糸
傷つくことが恐くなったのはいつからだろう。気付いたら、もう俺は現実に目を向けることをやめていたんだ。
目の前で変わっていくことが恐くて。独りきりの自分を見たくなくて。心の寂しさを曝け出したくなくて。
逃げ込む場所は、決まって誰かの優しさの中。それが同情だって良い。俺を必要としてくれる存在があれば、それで良かった。
でも、俺を護ってくれた人は、いつもどっかに行っちまう。俺と関わったせいだって、あの頃はずっと思っていた。
ただ、あいつだけは違ったんだ。俺を独りにしないって、笑って言ってくれた。
その言葉を信じられたから、俺はここまで歩いて来れたんだ。道に迷うこともなく、ずっと。
けれど。
俺は、あの日々を決して忘れない。これからも、きっと…。
☆
『しゅうちゃん!』
あ、呼ばれてる。
気付いて、俺は目線を下に向けた。
『ねぇ、しゅうちゃん、おりてきていっしょにあそぼ〜よ!』
『うん、でも、ぼく、ここでゆうやけをみたいから』
友達の声に答えて、俺は明るく笑ってみせた。
下から呼んでるのは、バスタードスラムに住んでた頃の友達だ。俺、確かこの時木に登って遊んでたんだよな。今思えば大した高さじゃねェんだけど、その時の俺達にとっては十分高い場所だったんだ。
『いいなぁ、しゅうちゃんだけ、そんなたかいとこにいけて』
『ね、ゆうやけきれい?』
口々に友達の声が聞こえてくる。それに、俺は笑いながら言った。
『うんっ、すっごくきれい!おそらがね、まっかになってるんだ』
言いながら、俺は足を振る。めちゃめちゃ浮かれてるみたいにさ。実際はそれどころじゃなかったんだけど。
『こら、そこの子供達、何やってンの?』
『あ、美咲姉ちゃん!』
友達の声に気付いて、俺は首だけそっちに向ける。そこには、蔆紜区立高校の制服を着た女が立ってた。
『ほらほら、子供はもう帰る時間だよ』
『えぇ!?まだあそびたりない!』
『お母さん達、心配してたんだけど?』
文句を言う子供達に美咲が諭すように言うと、そいつらは慌てて遊び道具を片付け始める。怒られる、とか、今日の晩御飯は何かな、とか言って。
『じゃあね、しゅうちゃん』
『またあしたね!』
手を振りながら、口々に言って去っていく友達の姿を見送って、俺はようやく笑みを消した。んで、下で子供達に笑顔を向けている美咲を見た。したら、それに気付いた美咲はため息をついて言ってくる。
『あたし、もうするなって言ったはずだよね?』
『だってぇ…』
『だって、じゃない!』
怒鳴りつけられて、俺は思わず肩をすくめてた。でも、それから美咲が黙って手を出してくれるから、俺もようやく安心して木から降りることが出来たんだ。
ほんとは、木の上には登れるけど、自分独りでは降りられなかったってのを意地張って友達にばれないようにしてただけ、なんてことを知ってるのは美咲だけだ。
何だかんだ言って、俺のこと解ってくれてんだよな。それが嬉しくて、美咲にしがみつくようにすると、ぽんぽんと俺の背中を叩いてくれた。
『あ、柊一、課長も由香さんも今日は帰れないから、またうちでご飯食べていきな?』
『またぁ?』
俺を抱えたまま、美咲がいつものように言ってくるけど、俺はすぐに文句を言う。だってさ、この当時、父さんも母さんもほとんど家にいなかったんだ。子供なりに、両親の仕事が忙しいってことは解ってたけど、それでも、やっぱ両親と一緒にいたいって思うしさ。
でも、美咲はそんなこと十分に解ってて、笑いながら言う。
『あっ、そう。そんなこと言うんだ?今日は有哉が実家から送ってもらった食料持ってきてくれるんだけどなぁ…』
『みかん!?』
美咲の言葉に、俺は勢い良く聞き返す。有哉がくれるのってたいていミカンだし、俺もミカン好きだしさ。
『さぁ、どうだかなぁ?まぐろとか、くじらの肉もあるかもよ?』
『えぇ!?くじらきらい…』
楽しそうな美咲の言葉に、俺は思わず文句を言っちまう。したら、美咲の奴、すげぇ意地悪なこと言ってくるんだ。
『そんな好き嫌い言ってっと、いつまで経ってもチビのままだぞ?』
『チビじゃないもん!』
美咲の言葉に、俺は美咲の肩を何度も叩いてた。そうだったよ。俺、この頃からあんま背が高くなかったんだよな。だから、めちゃめちゃ背が高くて、カッコ良い美咲に憧れてたんだっけ。
そのまま、美咲の言葉に従って、俺は姉貴と一緒に美咲のうちに泊まった。俺の親父と美咲の親父が昔の族仲間っていうのがあって、結構美咲の家に預けられることが多かったんだよなぁ。
で、美咲、学校が休みだったりした時は、たまに庁舎まで連れてってくれたもんな。その時は、
『柊一、そこでバカ顔晒してイビキかいてるノーテンキ野郎の腹にいつものくらわしてやって?』
『は〜い!』
平然と言ってくる美咲の言葉に頷いて、俺は開け放たれた応接室の長椅子――つまり美咲の真正面で堂々と居眠りぶっこいてる奴のところまで歩いて行った。
『有哉、おきろッ!』
『ぐはぁっ!』
俺が、飛び跳ねた勢いで有哉の腹に強烈なエルボを喰らわせると、有哉はそのままどっかに旅立っちまいそうな声を上げ、腹を抱える。その様子に俺が笑ってると、いきなり肩を掴まれた。
『しゅ〜う〜い〜ち〜!お前、もう5つやねんから、やってえぇことと悪いことの区別ぐらいつけんかい!』
『わかってるよ。しごとちゅうにねちゃうのはわるいことだよね?』
俺が当たり前のように返すと、有哉の表情が固まる。刹那、いきなり美咲が爆笑を始めた。
『こりゃ、柊一に一本取られたね、有哉』
『くっそぉ、こいつ、頭だけはえぇからな。チビのくせに』
『チビ言うな!』
有哉の言葉に俺が反論すると、いきなり有哉が笑ってくる。気付いたら、ちょっと離れた所にいた俺と同い年くらいの子供も笑ってたから、俺もつられて笑ってた。
でも、楽しかったのはここまでだった。
それから1年して、俺はバスタードスラムから蔆紜区の中心地区に引っ越した。そこから、俺の周りの環境は音を立てて崩れ始めたんだ。
バンッ!
すげぇ音がして、背中に激しい痛みが走ったと同時に、脳ミソが揺さ振られるような感覚に襲われる。突き飛ばされたと理解したのは、その一瞬後だった。
『お前、うっとおしいんだよ!大人しく構えて、先生にとりいって、優等生のつもりか?』
『ち、違…ッ!』
反論しようとしている間に、肩を足で踏みつけられて、俺は思わず言葉を飲み込んだ。でも、そんな様子も楽しいらしく、俺を見下しながらクラスメイトが言ってくる。
『あぁ?何だって?聞こえねェなぁ』
そいつが言うと、後ろにいた何人かの奴が笑い声を上げる。バカにされてるのは解ってるのに、俺は全然動けなかった。
こんな奴らでも、人を傷つけるのが恐かったんだ。俺は他の人とは違う、そんなことはとっくに知ってたから。
俺のこの髪の色は、遺伝なんかじゃない。それから、力も半端じゃないほど強かった。それが、バスタードとしても特異であるってことが、みんなとは違うんだって事実を無理矢理つきつけてくる。
だから、それから目をそらしたくて、何も聞こえないフリをする。何も出来ないフリをする。それが良いんだって思ってた。この頃の俺は、いろんなことに疲れきって限界に近い状態で、自分の命を繋ぐように誰かに護ってもらっていたから。
『やめなさいよ』
唐突に澄んだ声が聞こえてきて、俺もクラスの奴らもその声の方を見る。そこには、腰に手を当てた女の子が一人、怒りの表情を作って立っていた。
『柊ちゃん、帰ろ?香織、待ってるから』
言いながら、その人、杏姉は俺のランドセルを取って俺の身体を起こしてくれると、クラスメイトを置き去りにして歩いて行っちまう。
んで、そのまま学校を出て暫く歩いて、人通りの少ない所に来ると、
『ちゃんと泣かなかったんだ?頑張ったね、柊ちゃん』
俺の顔、見もしないで言ってくるんだ。母親みたいにさ。気付いた時には、俺はもうぼろぼろ泣いてた。多分、気付かれてたと思う。でも、気付かないフリしてくれてさ。
杏姉は、於希杏樹って人は、本当に優しかった。俺よりいっこ上で、家が近所で仲良くて、俺の面倒を良く見てくれた。本当の姉貴みたいにさ。俺がいじめられてる時は、いつも杏姉が助けてくれた。
でも…。
「ッ…!」
先生から言われて次の時間の道具を教室に運んでた時、俺は小さな悲鳴が聞こえてきた気がして足を止めた。
校舎の陰に、誰かいる?
気になって覗いてみれば、そこにいたのは杏姉と何人かの女で、
『あんた、あの子を助けて良い気になってんの?とんだ偽善者じゃん』
『そうやって男子のポイント稼いでるんだ?』
『ちょっと顔が良いからって、生意気なのよ!』
『きゃあ!』
『ッ…!』
杏姉の声が聞こえてきたけど、俺はその場から一歩も動くことが出来なかった。
今出て行っても助けられないから?違う。出て行く勇気がなかったんだ。いつも助けてもらってるのに、俺は…。
女達はそれで満足したのか、笑いながら去っていく。で、そいつらがいなくなってから、俺はようやく呪縛が解けたように走り出した。
「杏姉!」
「柊ちゃん!?」
俺が現れたことに、杏姉はめちゃめちゃ驚いてた。でも、すぐに傷だらけの顔に俺の好きな笑顔を作ってくれる。
『バカね、柊ちゃん。貴方が泣くことなんかないんだよ?』
『だってぇ…。僕のせいで、杏姉が…ッ!』
しゃくりあげながら言うと、いきなり杏姉が俺を抱きしめた。んで、すげぇ優しい声で言ってくれる。
『平気だよ。私、間違ったことしてないもん。だから、泣かないで?』
『杏姉ぇ…』
結局、いつだって杏姉は俺のことばっか心配してた。自分よりも優先させてさ。俺はいつだって、杏姉や美咲、有哉に護られてたんだ。俺の、一番の心の支えだった。
なのに…。
『ジュンショク…?』
最初にそれを聞いたのは、夏休みが終わって、一ヶ月も経たないうちだった。親父からその真実を聞かされた時には、俺は自分の耳を疑った。
『嘘だよッ!だって、約束したもん!誕生日、一緒にお祝いしてくれるって!好きなもの買ってくれるって!僕、何か悪いことした?だから、美咲も有哉も怒ってそんなこと言うんでしょ?ねぇ、お父さん!』
『柊一!』
俺の言葉を止めたのは、普段は大人しい母さんの声だった。その険しい表情と突き刺さるような声音が、俺に否応なく現実を突きつけてくる。
その後は、もう訳が解んなくなってた。自分の部屋に駆け戻って、おかしくなるくらい泣いて、それでもまだその時は父さんも母さんも姉貴も杏姉もいてくれたから平気だったんだ。ちょっとは悲しみも軽減できてさ。
んで、そのまま月日が流れて、5年生に進級して、夏休みちょい前くらいだったか、今度は杏姉がいなくなった。
それは仕方ないと思う。父親の仕事の都合だって。それで、埼玉に行くんだって。
やっぱり、杏姉は最後まで俺の心配をしてた。自分がいなくなってもあいつらに負けちゃダメだ、しんどくなったらいつでも電話して、って。俺はそれに大丈夫って返したんだけど、内心ではもう終わったって思ってた。姉貴も小学校卒業してるし、もう俺を助けてくれる人はいないから。
そのまま、俺は独りになった。
案の定、いじめはエスカレートした。この辺りで抵抗でもしてみりゃ良かったのかもしれない。でも、もう疲れきってたんだ。
靴がなくなるとか、机にいろんなことが書かれてるとか、そんなのほぼ日常化してた。そんな時、
『返して!』
『やーだね。欲しけりゃここまで来いよ』
物を取られて、こうやって追いかけるのも珍しいことじゃなかった。でも、その時は違ってたんだ。クラスの奴が持って走り回ってるのは、有哉からもらったペンケース。今は形見になっちまったそれを他の奴らに触られたくない。その一心で、必死に追いかける。
『ダメだったら!』
俺が追いつく寸前で、そいつはわざとらしく他の奴へペンケースを投げて、俺に取らせないようにする。そんなことを何度も繰り返してたんだけど、
『あ…!』
投げまくってる途中で、1人の奴が手を滑らせたんだ。俺がチャンスだと思って手を伸ばした刹那、そこには足場がなくて、俺の身体は宙に投げ出されて、
「うわぁぁぁぁぁっ!」
自分の叫び声で、俺はようやく目を覚ました。周りを見れば、そこは見慣れた自分の部屋だ。階段から落ちたのは、過去の記憶が呼び覚ました錯覚だったんだ。それで、ようやく夢だったことに気付いて、俺は安堵の息をつく。
時計を見れば夜中の3時だ。学校に行く時間まであと4時間。十分二度寝できる時間だ。でも、気分的にはそんなことさせてくれそうになかった。
「っそぉ…」
この想いをどうしようもなくて、俺は顔を手で覆った。こうでもしてねェと、泣いちまいそうになる。
思い出したくもなかった。何で今更こんな夢見るんだよ…。
胸中で悪態をついて、起き上がると、俺は冷蔵庫を開けた。
☆
「…いち、柊一」
どこからか、俺を呼んでる声がする。すげぇ近いみたいに感じるし、遠くにも感じるし。
これも夢なのか?だって、あいつがうちにいるわけねェもんな。じゃあ、これは夢なんだ。だったら、こんなはっきりしてる夢もそうそうねぇし、何しても良いよな?
「あ〜きらっ、一緒に寝よ?」
言って、俺が手を伸ばそうとした瞬間、
「寝ぼけるのも大概にしろ、バカ!」
「いってぇ!」
本気ではたかれて、俺は思わず声を上げてた。それでばっちり目は覚めたんだけど、自分で叫んどいて、かなりのダメージを追加で食らう。
「っつぅ…」
「当たり前だろ?カクテル3缶も空けて。そりゃあ二日酔いにもなるよ」
俺が頭を抱えてると、翠の奴、呆れたように言ってくる。確かに、そんな強くねェのにこんなに飲んだのは我ながらバカだと思うけどさ、それにはちゃんと理由があってだなぁ…。
「何か嫌なことあった?」
俺が何か言う前に、翠がベッドサイドに座りながら言ってくる。やっと俺の瞳に映った翠は、カーテン越しの朝陽を浴びて、すげぇ綺麗に見える。それから、めちゃめちゃ優しい笑顔を浮かべてたんだ。その顔を見てると、思わず泣きそうになっちまう。
似てるんだ。今まで俺を護ってきてくれてた人達が見せてくれた表情に。でも、何とか自分の気持ちを押し殺して、言う。
「…夢を、見たんだ。小5くらいの時の」
「…そっか」
無理やり吐き出すようなその言葉に、翠は頷いただけだった。解ってくれてるんだよな。こいつは俺の過去をだいたい知ってるから、それだけで伝わるんだ。
「あれからもう3年も経つんだぜ?なのに、いまだに忘れられねェでうなされて、バカみてぇ…」
つい自嘲的な笑みを浮かべて言うと、翠が軽く俺の頭を叩いてきて、それから優しい笑顔を見せて言ってくれる。
「そんなことないよ。身体の傷が消えても、心の傷は簡単には消せないんだから。ぼくだって忘れられないようなこともあるし、人間ってそれほど強いものじゃないと思うしさ」
言いながら、翠はどこか寂しげな笑みを見せる。こいつにも、いろいろあったもんな。自分の目の前で美咲と有哉が死んで、それが自分のせいだと思って、だからこそ、その時のことをいつまで経っても忘れられないんだ。
俺がンなことを考えてると、それに気付いたのか、翠が明るい笑みを見せた。んで、そっと俺に手を伸ばしてくる。
「だからさ、しんどい時は無理するなよ?お前はもう独りじゃないんだから。ぼくが、いるからさ」
俺の髪に触れながら、翠が言ってくる。めちゃめちゃ優しい表情でさ。
俺が見てるのは、いつだって俺の心を護ってくれる、優しくて、強い女ばっかだった。美咲も、杏姉も、恋とは全然違うけど姉貴もさ。んで、こいつも。
翠の場合は、男でも女でもない。男っぽいとこも女っぽいこともあって、普段は結構男友達って感じで接してると思う。でも、今まで護ってくれてた人みたいに、俺のこと、大事なとこではいつも支えてくれるんだ。側にいて欲しい時にはいつだって側にいてくれて。
こいつには弱い部分を見せたくない。人前で泣くことなんて、今じゃ格好悪いだけって思ってるはずなのに…。
「お前、最悪。俺がそういう台詞に弱いの知ってるくせに…」
「だからこそ言ったんだよ」
必死で耐えようとしても視界がにじんで、こんなに近くにいる翠の顔させも見えなくなってく。そうなっちまったら、結局俺はもう何もかも抑えることが出来なくなってた。
こいつの前じゃ、素直に泣けるんだ。初めて涙を見せた時から、俺はこいつの心に惹かれてた。でも、それは今までみたく優しい言葉をかけてくれてたからだけじゃなくて、俺の心を見抜いて、必要な言葉を与えてくれる、こいつのあったかい想いに、俺が負けたから。
「側にいろよ。もう、独りになりたくない……」
気付いたら、俺は翠を思いっきり抱きしめながらそんなことを口走ってた。自分でも、身体が震えてるのが解る。
現実から目をそらせないことなんて、もうとっくに達観してた。でも、ペンケースを取り戻そうとして階段から落ちて、自分の頭からどくどく血が流れ出てるのが解って、俺はもうダメかもしれないって思った。んで、目ェ覚ましたら病院のベッドの上にいてさ。あの時ばっかは、このまま死ねば良かったって本気で思ってたんだ。
けれど、
「絶対に、独りにさせないよ。もう何年その約束を果たしてると思う?」
翠が、明るく笑って言ってくれるから。それが当然のように響くから。俺は、その言葉が聞きたくて、同じ台詞を繰り返す。そしたら、こいつも飽きもせずに同じ答えを返してくれるんだ。
そのまま、俺は言葉もなく、翠に抱きついたまま泣いてた。学校に行く時間ギリギリだってのに、翠も何も言わねェで、時々俺の背中を慰めるように叩いてくれるんだ。それが、大丈夫だって安心感を俺に与えてくれる。居心地が良いって、心からそう思えた。
結局、そのまま同じ体勢でいて、気付いた時にはもう始業の時間になってた。いい加減俺も落ち着いてきて、ようやく翠を離して顔を上げる。
「あ、学校…」
思い出したように呟いて、俺は涙をぬぐうと、身体を起こそうとする。でも、翠の様子が何かおかしい。
「翠…?」
俺に寄りかかったままで身体を起こしてくる気配がないのを訝しんで顔を覗き込んでみれば…
「ね、寝てやがる…」
それには、さすがに俺も呆れちまう。こいつ、たいてい良いことを言った後はオチがつくんだよなぁ。まぁ、良いんだけどな。
「ありがとな、翠」
言って、そっと抱きしめても、翠は目を覚ます気配を見せない。面と向かって礼を言うのはちょい照れくさいから、今言っとかないとな。
お前には、本当に言葉では足りないくらい感謝してるから、お前に何かあった時は、絶対俺が護るよ。俺の中でもつれていた糸を解いてくれたのはお前なんだから。
あとがき:
一応、自爆した500HITの小説ということで。
と言っても、普段から個人的に書きたいことを書いているだけなので、大差はないのですが。
やっぱりと言うべきか、再発と言うべきか、またもや涙ネタ。しかも、暗めの、というか、ダークな話で。
タイトルのplasticなんですが、そのまま、"プラスティック製の"って意味もあるんですが、4番目くらいの意味に、"柔軟な・感受性の強い"って意味があるんです。で、そっちの方の意味で。
あと、ジャンヌの"plastic"って曲を聞きながら書いたっていうのもありますし。
書いてるうちに暗い方向に流れていったのですが、個人的にはこういう雰囲気の話が好きなので、今回は自分自身へのリクということにしました。
またもや長いのはご愛嬌です。
〔2004.6.13〕