澄んだ空に

 人通りの多い通りを、久しぶりに歩く。
 雨が上がって空も晴れ、気候も涼しげで、気候も涼しげで、気持ちの良いくらい。ただ、それは周囲の環境に限った話。
「何拗ねてんの?柊一」
「……」
 呼ばれても、俺は答える気にはなれなかった。こいつ、その理由が解って聞いてンだし、余計に。まぁ、そのイライラの原因は、実は俺自身にあったりするんだけど。
「ねぇねぇ、俺達とどっか行かない?」
 いきなり後ろから声が聞こえてくる。でも、誰に向かって言ってるのか、全っっっ然解んなかったから、俺は無視して歩いてたんだけど、
「ねぇってば」
「るせェ!どこに目ェつけてやがンだッ、このボケ!」
 前に回り込まれて自分に言われたものだとはっきり解ると、さすがに耐え切れずに、俺は思い切りその野郎を怒鳴りつけてやった。さすがに声まで聞きゃあ解るだろ?
 でも、そいつは、俺の予想に反した反応を見せた。
「何だ、男連れか」
「へ…?」
 やっと気付いたかよ…。
 そう思って顔を上げてみたら、そいつが見てンのは俺の隣だった。
 ンで、男の言葉に答えた、っつーか、間抜けな声を出したのは、俺じゃなくて隣にいた翠の方だった。じゃあ、俺よか、翠の方が男に見えたってことかよ!?
 そのことに気付いたら、頭のどっかで何かが切れるみてェな音がした気がした。その勢いのまま、俺はため息ついて離れていこうとしてた野郎の背中に本気で蹴り入れてやった。
「ざけんな!俺が男だっつってンだよッ!!」
 言ってやるけど、顔面から地面に突っ込んだそいつにはもう聞こえてなかったらしい。で、翠があんまり心配そうに俺の方を見てくるから、とりあえずこの場を離れるべく早足で歩き始めた。さすがに、こんな大通りの中じゃ、思いっきり目立っちまったしな。
 でも、あんなことで俺の怒りが収まるはずもない。だって、今日だけで4回目だぜ?まぁ、翠が"彼氏"だと思われたのは、今回が初めてだけど。
「ったく、何で俺が女に見られて、お前が男なんだよ?普通逆だろ?」
「どういう理屈で普通なんだよ?」
「俺の判断」
 言うが早いか、翠の奴、思いきり俺の頭をはたきやがった。しかも、すげェ良い音したし。で、ついでに水音も。
 さっきまで雨降ってたから、服はそうでもねェけど、髪はめちゃめちゃ濡れてンだよな。翠は元々ストレートだから大して変わンねェんだけど、俺は普段髪はねまくってて、濡れたりするとセミロングぐらいまで伸びちまうから、余計に女に間違えられるんだよなぁ。
「ねぇ、思うんだけど、そんなに嫌なら、髪切れば良いんじゃない?」
 俺の髪に触って、翠がもっともなことを言ってくる。でも、それが出来ないから問題なんだって。
「俺もそう思ったけどな、切ったら切ったでめんどくせェんだよ。それに、根本的なことは変わンねェし」
「確かに…」
 言ってやると、翠はすぐに苦笑しながら頷いてくる。一回試しと思ったのと、敦郎ってキャラには髪短い方が良いだろうと思って、切ってみたんだけど、もう頭爆発しちまって、外に出れる状態になるまで結構かかるんだよな。ほんと、この姿の時に切らなくて良かったって、切実に思ったし。
「ほんと、そんな髪長いと、いつにも増してかわいいよな?」
「…お前、喧嘩売ってンのか?」
 皮肉っぽく言われて、俺は思わず拳を固く握る。でも、それで翠がビビるはずもなくて、むしろ楽しそうに笑った。
「まぁ、天性のものじゃ、誰にも文句言えないもんね?にしても、ほんと女の子だ」
「っるせェな!どうせチビで女顔で声だって高けェよ!でも、俺だってまともな格好すりゃあなぁ…」
 翠の言葉に反論しかけて、俺は思わず言葉を止めちまった。思えば、今の今まで、ロクに男扱いされたことなくねェか?制服着ててもほとんどの場合かわいいって言葉でくくられちまうし。うぅわ、マジヘコむって…。
 そんなこと考えちまったら、思わずその場にしゃがみこんで泣きたくなってくる。今となっては男らしさとか女らしさなんて考え方は古いけど、ガキの頃から散々かわいいとか言われて、周囲からかわいいとか言われて育てば、人並み以上に反発もしたくなるって。
「でも、これで解っただろ?ぼくの気持ち。誰かさんが同じことをしてるんだからな」
「う…」
 嫌味っぽい言い方されて、俺は思わず黙っちまう。翠には性別がないからって楽観的に考えてた部分が多かったけど、こいつ、女装があんま好きじゃねェみてェだし、俺と同じ気持ちだったんだな。
 そのまま俺が何も言えないでいると、不意に翠が吹き出してくる。いきなりのことだったから、俺は訳が解んねェで翠を見てたんだけど、それに気付くと、翠は笑顔で言ってきた。
「解ってくれれば良いよ。それに、ぼくが女装してる時の方が、柊一、優しいし?」
「ま、まぁな…」
 自覚がなかったことを言われ、俺はあいまいな返事だけをする。女相手にいつもの調子で話せないってのもあるんだけど、翠だけ特別ってのもあるんだよな。きっと、ンなこと思われてる本人は気付いてねェだろうけどな。
「それにね」
 自分の考えに浸ってたところにいきなり翠が話し始めて、俺は勢いよく顔を上げる。したら、翠はめちゃめちゃかわいい笑顔を見せて、
「柊一、カッコ良いなぁって思う時もあるよ?銃の訓練してる時の顔は、明香莉もカッコ良いって絶賛してたし。あ、あと、ギターで弾き語りしてくれた時とか」
 そんなふうに普通に言ってくるから、俺のが恥ずかしくなっちまう。
「バッカ、ンなこっぱずかしいことさらっと言ってンじゃねェ!」
「った!」
 照れ隠しのつもりで言って翠の頭をはたくと、案の定俺をにらみつけてくる。でも、その無言の主張を無視して、俺は深々とため息をついた。
「これが女の台詞だったら、すげェ嬉しいンだけどなぁ…」
「悪かったね、女の子じゃなくて」
 本当は翠が女だったらってつもりで言ったんだけど、翠は、ただ単に女から言われたかったという意味にとったらしく、仏頂面で言ってくる。その頭を今度は軽く叩いてやって、俺は笑顔を見せた。
「でも、ほんとありがとな、翠」
「うん」
 言うと、翠も笑顔を見せる。今は、この笑顔だけで十分だから。
 こういう良いこともあるなら、めちゃめちゃ嫌いな雨の後も悪くないと、そう思えた。





あとがき:
かなり前に日記にアップした絵の小説版ですね。
雨ネタもここまでくれば、という感じですが。そろそろ夏ネタに行かなければ。
久々の柊一視点と言うことになるんですね。
まぁ、柊一視点なので、若干翠の描写がおかしいですが。
そろそろ、雨&翠かわいいネタ脱出にかかります。
〔2004.7.17〕