朝の輝きの中で
朝、目が覚めれば、変わらない空が目に移る。
1人でいる朝は、身体を起こすのがひどく億劫で、それでも何とか起き出していた。
無気力感とはまた違う感じだった。普通に生活をしているだけ。自分に必要なことをするだけ。それだけのはずだった。なのに、どこかにわだかまる何かがあって。
でも、今はそれもない。朝、目が覚めれば、たいてい良い匂いが届く。小気味の良い音と、時には楽しそうな鼻歌も。それが、妙に嬉しさと安心感を与えてくれた。
今日もその声は響いていた。軽くステップを踏んでいるかのような軽やかな声に思わず笑みをこぼしながらも、ベッドから起き出してロフトを降りる。
彼女は、その音には気付いていないようだった。料理に専念していて聞こえないらしい。それを良いことに気配を忍ばせて近づくと、後ろから抱きつく。
「きゃあっ!?」
刹那、彼女が歌を中断して短く声をあげる。だが、そんなことなどおかまいなしに抱きこんでやると、今度は恥ずかしそうに言ってきた。
「い、いきなりびっくりするじゃない。寝ぼけてるの?リッド…」
今にも消え入りそうな声。耳まで赤くして硬直している様が可愛くて、また笑みが浮かぶ。
「寝ぼけてねぇって。寝ぼけてたらこうやってファラを抱きしめられないだろ?」
さも当然のように言って、抱きしめている腕に力を込めれば、今度は本気で抵抗される。
「行動が寝ぼけてるっ!ほら、朝ご飯いらないの?」
「別に良いよ。ファラがいるし」
ファラの肩に顔をうずめるようにして言ってやれば、また動きを止める。どのみち、ファラが本気で抵抗したところでリッドがそれを許さなければ抜け出すことは叶わない。何度も同じ体験をしているから、いい加減そのことがわかったのかもしれない。
そう思って、抱きやすくなったファラの肌の感触を確かめるように首筋に口づけていたが、
「わかった。リッド、もう朝ご飯いらないんだね?」
「へ…?」
予想外の言葉が返ってきて、リッドは顔をあげ、間の抜けた声をあげてしまう。そのせいで少し力がゆるまって、そのスキにファラはリッドの腕の中から抜け出し、こちらに向き直ると呆れ顔で手を腰にあて言ってきた。
「わたしがいれば、朝ご飯いらないって言ったもんね?食べたくな・い・ん・だ・よ・ね?」
「うわぁ、オレが悪かった!だから、朝飯食わせてくれっ」
語尾を荒げて言ってくるファラの言葉に、リッドは慌てて謝る。すると、ファラはそれに満足したのか、「よしっ」と頷いて、明るい笑顔を見せた。
「じゃあ座って待ってて。すぐ作っちゃうね」
「…あぁ、頼む」
笑顔というか苦笑に近い表情を浮かべ、リッドが頷く。最終的にこういう展開になるのは理解していたが、それでも繰り返してしまうのは、ファラがこうやって傍にいてくれることが嬉しいからかもしれない。
旅を終え、インフェリアに戻ってきてからかなり月日が流れた。セレスティアにいるというキールやメルディの無事も確認したし、チャットのおかげで今は遠く離れたセレスティアとも行き来が出来る。そのおかげで、インフェリアとセレスティアの間にも交流が出来た。世界の中でも、自分の周囲のことでも、様々なことが変わっていった。
――まさか、こんな生活が出来るとは思ってもみなかったけどな。
胸中で独りごちて、彼はまた楽しげに料理を始めたかつての幼なじみの少女を見た。澄んだ瞳も、お節介で楽観的な性格も変わらない。ただ変わったのは、2人の関係と、彼女が弱い部分を見せてくれるようになったこと。
「ファーラ」
「なに?」
呼びかけてみれば、笑顔を見せて振り向いてくれる。それを見て、リッドはいたずらを思いついた子どものように笑ってみせると、言った。
「すきだぜ?」
「ッ…!」
言った瞬間、ファラは驚いたような表情を浮かべ、顔を赤くする。だが、すぐに自分の表情の変化に気付いたのか、リッドに背中を向けた。
「もう、朝から変なコト言わないで!」
「変なコトって何だよ?素直な気持ちだろ?そんな顔真っ赤にして、ほんとは嬉しいくせに」
楽しそうに言うリッドの言葉に返事はない。背中を見ていても照れているのは丸わかりだ。その様子に、思わず声を押し殺して笑っていたリッドだったが、
「ほらっ、ご飯出来たよ!」
言って、ふくれっ面でファラが机に出来上がったばかりの料理を置く。その語調や表情から見れば怒っているかのようだが、そうでないことはファラの頬の赤さからわかる。
「いつもサンキュな、ファラ」
そっと彼女の頬に触れながら言ってみると、ファラは恥ずかしげにうつむいて頷く。それがかわいくて、つっ立ったままだったファラを引きよせて腕の中に閉じこめる。
「リ、リッド…」
いきなりの行為に、ファラが戸惑ったような声をあげるが、それには構わず、リッドはファラの頬に、唇に、口付けていく。
優しく口付けを繰り返せば、その頃にはもうファラも大人しくなっていて、脅えたようにリッドの服を強く掴んでいた手も今は彼の背中にまわされている。
そうやって、触れては離れての行為を繰り返した後にようやく唇を解放してやれば、ファラは大きく息をついて、少し濡れた瞳を開く。だがその表情を見られていることに気付いて恥ずかしくなったのか、すぐにリッドの胸に顔をうずめた。
「随分かわいいことしてくれるようになったよなぁ。だいぶ素直になったじゃんか?」
「…バカ」
からかうように言ってやると、ファラは小さな声で反論してくる。だが、先刻のように抵抗はせず、ぎゅっとリッドにしがみついていた。それに気を良くして、リッドはファラの髪をすきながら言う。
「愛してるよ、ファラ」
「すき」とは違う言葉の雰囲気に、ファラがわずかに身体を震わせる。だがそれも一瞬のことで、すぐに顔をあげて嬉しそうな笑顔を見せ、「わたしも」と言ってくれるから、また愛しさが生まれてくる。
どんな君もこの瞳に焼きつけておきたい。どんな時だって傍にいてほしいから。
その想いを伝えるように、リッドはそっと瞳を閉じた彼女に口付けた。
あとがき:
続きましたね、版権物。
第二弾も、テイルズオブエターニアで。
以前、ガーネットさまより"Outrager"小説を頂きましたので。
そのお返しに、ということで書かせていただきました。
砂吐きものというお題を頂いていたのですが、以前のものからワンパターンになってしまって申し訳なかったです。
甘々というと、どうもこういう雰囲気を考えてしまう自分発覚、ということで。
最後になりましたが、リクエストもありがとうございました。
こんなもので良ければ、貰ってやってください。
〔2005.3.6〕