晴れ渡る空、見上げて。

 青い空がやけに眩しく見えた。見晴台から見れば、近くに見えていた空も、今は遠くに感じて。
 あれから過ぎた季節はまだ1つだけ。それでも昔のことのように感じるのは、過ごしてきた日々がとても大切なものだったからかもしれない。
 目を閉じれば、思い浮かんでくる光景。
 つらかった時もあった。くじけそうになった時もあった。それでも、幾つもの苦難に立ち向かっていけたのは…。
「リッドー!」
 下から呼ぶ耳慣れた声に、彼は柱にもたれかかっていた体を起こした。声のした方に目を向けてみれば、笑顔で手を振る愛しい人の姿がある。
 自然と、笑みがこぼれた。
「まぁた仕事サボってきたのか?」
 からかうような口調で言ってやると、彼女は心外だと言いたげに頬を膨らませた。
「リッドじゃないんだから、ちゃんと終わらせてきたよ!そっちこそどうなの?」
 逆に聞かれるが、すぐには答えない。かなり前にも似たような会話をしたことが、何となく思い出されたからだ。
 思い浮かんだことに思わず笑ってしまったが、ちゃんと問いかけにも答えてやる。
「オレは今日必要な分を獲るだけだ。別に…」
「いつもと変わらねぇよ、でしょ?」
 半ば呆れたような声は、すぐ近くで聞こえた。目を向けてみれば、腰に手を当て、案の定な表情を浮かべている少女を見つけることが出来た。
「ほんと、変わらないね、リッドは」
 ごく自然に隣に座りながら言ってくるファラの言葉に、彼は平然と返した。
「いや、充分変わったぜ?前だったら1人分獲れば良かったけど、今は2人分必要だしな。それに、毎日うまいもんが食えるし」
「…食べ物のことばっかりじゃない」
 リッドの言いようが不満だったのか、拗ねたような口調で、ファラ。その仕草がかわいくて、リッドはそっと彼女を抱き寄せた。
「リ、リッド…?」
 彼の行為に、ファラが驚いたような声を上げる。良い加減慣れてくれても良いのに、と思いながらも、そうやって戸惑う仕草を見せる彼女も可愛くて、リッドは後ろから抱きこむ腕に力を込める。そのせいで、ファラが居心地悪そうに身じろぐのがわかったが、離してやるつもりなどない。
 そうやってしていると、暫くしてファラが抵抗をやめる。諦めたのか、疲れたのか、それともようやく居心地の良さを感じてくれたのか。どれにしても、とりあえず抱き込みやすくなったので、少し腕の力を抜いてやる。
「1番変わったのは、ファラが傍にいてくれることだ」
「え…?」
 唐突に言い出したからか、ファラが怪訝な声を上げる。だが、それにも構わず、続ける。
「ファラがいたから、ここまで頑張ってこれた。お前が頑張ってるとこ見てると、オレも頑張らないとって、自然と思えたんだ」
「リッド…」
 彼女から返ってきたのは、本当に嬉しそうな声。自分を抱きしめている腕にそっと触れてきながら。でも、ファラは小さくかぶりを振った。
「うぅん、助けられたのは、わたしも一緒。リッドに励まされて、支えられて、それがわかったから、わたし、ちょっと悔しかったけど、嬉しかったんだよ」
「…そっか」
 顔の前で手を合わせて、本当に嬉しそうに話すから、言われている方が恥ずかしくなって、ついそっけない返事をしてしまう。
 だが、それが声から伝わってしまったのか、軽くこちらを見るようにしてファラが言ってきた。
「自分から言っといて、照れてるの?」
 そんなことを、笑顔を見せて言う。あたたかい光に照らし出されて、きらきら輝いて見えるから、余計に綺麗に見えて、愛しさが増す。
「ったく、誰のせいだ、誰の」
 照れ隠しのつもりで少し荒々しく言うが、ファラからは笑い声しか返ってこない。さっきまではファラの方が恥ずかしそうにしていたのに、今では立場が逆転してしまっている。
 自分が想われていたことにはなかなか気付かず、こうして抱きかかえるたびに恥ずかしげにうつむくくせに、人の気持ちの変化には敏感だ。それが癪でもあり、自分のことをわかってくれているようで嬉しい。さっき言っていたファラの気持ちがわかる気がする。
 照れている顔を見られたくなくて強めにファラを抱き込んでいると、彼女はまた身じろぎ始める。だが、今度は恥ずかしいからではないらしい。
「ねぇ、リッド、そろそろ帰ろ?わたしも、まだやることあるし」
「まだ良いだろ?」
 どこか戸惑いがちな言葉にあっさり返してやると、ファラは言葉を詰まらせる。だが、すぐに反論してきた。
「風も出てきたじゃない。このままじゃ2人とも風邪引いちゃうよ」
「…まぁ、それもそうだな」
 今度はあっさりファラの言葉を認めて、手を離す。すると、ファラは小さく息をついて立ち上がり、見晴台を降りようと踵を返したが、その瞬間、リッドが彼女を引き寄せていた。それにはさすがにファラも抗議の声を上げるが、そっと耳元に口付けて言葉を奪う。ぴくっと身体を震わせ、強く服を掴んでくる様は怯えているかのようだが、そうでないことはリッドも良く知っている。
 そのうち、ファラは顔を上げ、不安げな瞳でこちらを見てくる。その不安を拭うように口付けてから、リッドは笑顔を見せた。
「ほら、この方がファラの顔がよく見えるし、こうしてれば寒くないだろ?」
「こんなの、さっきと大して変わらないし、抱きしめられてたら顔なんか見えない!」
 ひっかけられたことがよっぽど悔しかったのか、拗ねたようにファラが言ってくる。
 こうやって、自分に向けられるどの感情もどの表情も愛しくて、かわいい。だからこそ、離したくないと思う。やっと見つけた、心休まる場所。
 このぬくもりを感じるだけで、安心できた。
 声を聞けば、心が温まるように感じる。
 ここにいれば、いくらでも素直になれる。
 心のどこかにわだかまっていた寂しさを取り除いてくれたのは、確かに、この幼なじみだった少女なのだから。
 暫く黙って抱いていれば、またファラがくすくす笑い始める。その声に気付いて手を緩めれば、楽しそうな表情を見せてくれた。
「リッド、何か小さな子供みたい。かわいい」
「かわいい言うな」
 ぶっきらぼうに返して、今更ながら自分の行為に照れを覚える。だが、何と言われようが、どう思われようが、大切な人が傍にいれば、それで良い。
「ほら、家に帰ろ?お昼はリッドの好きなオムレツ作るから」
「じゃあ、続きは家に帰ってからな?」
 ファラの言葉に頷いて言うと、小さな声で「バカ」と返してくる。その様子に思わず笑ってしまいながらも、自分の想いを伝えるように、リッドはもう一度、彼女に口付けた。
 目が届くところに彼女がいて、手を伸ばせば触れられる。
 2人で、同じように笑っていたいから、この手を離せない。
 この想いがある限り、それは決して変わらないと、そう思った。





あとがき:
ついに足を踏み入れました、版権物。
ちょこちょこ日記でも宣言しておりました、テイルズオブエターニアというゲームの主人公、リッドと、ヒロイン、ファラの話です。
今回、相互リンクさせていただくことになりました、ガーネットさまへの捧げ物として、このような小説を書かせていただきました。
最近メインで書いているのがOutragerでしたからね。
こういう雰囲気の話を書かせていただいて、新鮮でした。
書く機会を与えてくださったガーネットさまには感謝です。
ありがとうございました。
〔2005.2.13〕