君が 歩む 道の 栄光
2×世紀、東京都蔆紜区。
2000年代初頭の技術革新によって、様態を大きく変えた世界同様、この街も当時と比べて大きく変わった。
遺伝子改良を受け、能力的に進化したとされる人類、ジェネティックレイスや動物遺伝子を組み込むことで動物遺伝子を組み込むことで動物の持つ能力を使えるようになった人類、バスタード、そして今まで当たり前のように存在していた人類、ラジカルの3種が共に世界を生きている。また、そういう能力が高い人種で生まれることで、子供でも高い能力を持つようになり、そんな子供達が早くから就労して技術者を育成できるようにと特別労働法という法律も制定された。それに伴って、子供達も学校で早くから専門技術を学べるように変化してきた。
だが、そんな中にあっても、基本的な生活スタイルは変わらない。仕事があって、それが終われば飲みに行くこともある。学校があって、下校途中に街で遊ぶこともある。
今の時間帯は、ちょうど高校の下校時間だ。街の中にある繁華街には制服姿の者達が多い。
その中にあって、目立つ人物が2人。
1人は、年の頃14、5歳――一見したところでは中学生にも間違えられかねないが――、赤髪金瞳で、桃李学園の男子の制服に身を包んでいる。もう1人は年の頃15歳、エメラルドグリーンの髪に青瞳で、服装は隣の少年と同じである。学生が多いこの通りで2人が目立つのは、その顔立ちと、この辺りでは有名な専門職修業高校である、私立桃李学園高等部の制服を着ているためだろう。
通り過ぎていく女子高生が騒いでいる声が聞こえてくる。それは、当然彼らの耳にも届いていた。
「何か、良い加減慣れたけど、やっぱり見世物になってる気分だよ。な? 柊一」
エメラルドグリーンの髪の人物が、隣の少年に声をかける。すると、彼、柊一は恨めしげに友人を見た後、盛大にため息をついた。
「お前はカッコ良いだの何だの、良いように言われてるからそんな口が聞けンだよ…」
「え? 柊一、悪く言われてたっけ?」
疲れたように言えば、案の定怪訝な声が返ってくる。それには、さすがに柊一も怒鳴るように言った。
「かわいい、だぞ!? この年になって、かわいいなんて言われたって嬉しくねェっての! それに、翠がカッコ良いで、俺がかわいいってのが納得いかねェ」
「…見たままだろ?」
心底不満げな柊一の言葉に、翠は思わず半眼でつっこんでしまっていたが、それはあっさり黙殺された。
彼ら、仁科柊一と東麻翠は、高校生ながら警視庁刑事部特別捜査スプレス課――通称特捜S課に所属する刑事、スプレスである。スプレスとは、俗に言う超人類――遺伝子改良により身体能力を高めた人類、ジェネティックレイスと、動物遺伝子を組み込まれ動物能力を発揮できるようになった人類、バスタードの2種の総称――の起こす犯罪を取り締まる特捜刑事だ。
まだまだ人員の少ないスプレスでそれ程知名度も高くないが、その中にあって、柊一と翠は、庁舎でもその検挙率の高さで有名である。彼らのコンビ名、"アウトレイジャー"も、ほとんどの警視庁職員が知るほどだ。それは、2人の容姿のせいでもあった。
柊一は髪と瞳、翠は髪色が先天的なものとしては珍しいものである。加えて、柊一は母親似の童顔とかわいらしい顔立ちで、翠は容姿端麗という言葉が似合うくらいだ。そのおかげで、警視庁職員のお姉様方には人気があった。ただ、柊一はかわいいということを認めてはいないが。
「ったく、学校じゃ体育とかで良い感じに目立てンのになぁ」
頭の後ろで手を組んで、独りごちるように、柊一。それに、翠は思わず苦笑で応じた。
「誰かさんは無駄に目立とうとするからな。ちっさいくせにダンクとかスリーポイントとか頑張って」
「ちっさい言うな。ほんと、とことん喧嘩売ってンな、お前は」
あまりの物言いに半眼で応じ、柊一は小さくため息をつく。だが、それはすぐに意地の悪い笑みに変わった。
「あ、お前もしかして、今日活躍できなかったから羨ましいんだろ?」
「お前じゃあるまいし、そんなわけないだろ?」
「あぁ、さいで」
言うが早いか、あっさり返される。もはや、付き合いも長いためにこんな反応は予想できていたが。
今日は体育でバスケットボールをやり、途中で交代した柊一が翠と組んで逆転に成功した。ほとんど絶望的だった点差だったのだが僅差で勝ち、その時ばかりは女子の側からだけでなく、チームメイトや果ては敵チームからも歓声が上がっていた。
「まぁ、あの勝利は俺の活躍があってこそだろ?」
「ったく、ほんと、調子良いな…」
自信たっぷりに言う柊一に、翠は苦笑じみた表情で言う。だが、途中で何かに気付いたように表情を変えた。
「あ、柊一、ストップ」
「はぁ?急に何言っ…」
その言葉は最後まで続かなかった。代わりに、身体が傾いたのを実感する。
「うわっ!」
ゴッ☆
「あー、遅かった…」
凄まじい音を立てて、柊一は顔面から地面に突っ込んだ。その後ろで翠が苦笑しながら言う言葉も、最早柊一の耳に届かなかった。
顔面というか、とりわけ鼻を強打し、その痛みにすぐ立ち上がれない。だが、何とか身体を起こし、痛みを抑えるために鼻の辺りに手をやる。あまり意味はなかったが。
「大丈夫? 柊一」
「ッ〜〜〜!」
心配げに、というよりは、乾いた表情を浮かべて呆れたように、翠。それには応じられず、暫く痛みが引くまで待って、吐き出すように言った。
「ったく、何なんだよぉ…」
「あ、見てよ、コレ…」
柊一の言葉に答えるように翠が言ってくる。その声に従って目線を下げてみれば、柊一を転ばせた張本人がそこにあった。
〔2005.6.13〕
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