「石…?」
 怪訝な声を上げたのは2人同時だった。目の前にあるのは、どう見ても街中には不似合いの、それこそ漬物石か、とでも言いたくなるような代物である。
 それを暫く無言で見つめた後、柊一と翠は互いに顔を見合わせた。
「石、だよな…?」
「どう見ても石、だな…」
 あまりの光景に、2人はつい再度確認してしまう。乾いた笑みを浮かべて言った後で、2人は再び視線を石に戻した。
「何で、こんなところに?」
「俺が聞きてェよ…」
 翠の言葉に半眼で答え、柊一はその石を持ってみる。結構な重みがあって、外見通りの重量である。
 ここが川原や山の中というならまだわかる。だが、こんな街中に、これほどのサイズのものが無造作に転がっているのはあまりにも不自然だ。
 怪訝な顔を変えず、柊一は上を見上げた。もちろん、上空には何もない。両サイドも左は道路、右はマンションが立ち並んでいる。
「マンションから落ちた、って可能性は低い、よな…?」
 半眼で、乾いた笑みを浮かべながら、柊一。我ながらバカらしい考えだとは思うが、口に出してみればもっとありえないと思う。それは翠も同じだったようだ。
「ありえないな。2階から落ちたにしても、これだけの大きさなら衝撃痕が残る。ついさっき、誰かがここに置いたと考えるのが妥当だろうな」
「何でついさっきなんだよ?」
「誰かみたいに派手に転ぶ可能性があるからだろ」
「…悪かったな」
 さらりと嫌味を言われ、柊一は半眼で返す。忘れていた痛みが若干蘇った気がした。
 だが、翠の言う通りだ。こんな道路のど真ん中にあれば、こけないにしてもつまづくだろう。そうなれば、石をよける人がいるはずだ。だとすれば、やはり柊一達が通る少し前に置かれたと考えるべきか。
――でも、誰が、何のために…?
 口元に手を当てて、思考を巡らせる。転ぶ人を見て楽しんでいるのだろうか。ただの愉快犯なら、それはそれで問題だが、もし、何らかの意味を持って置かれたものだとしたら?
「翠、調べてみようぜ?」
「え…?」
 唐突に言い出したからか、翠が怪訝な声を上げる。だが、すぐに理解したようで、柊一同様、不敵な笑みを浮かべた。
「おもしろそうだな。気になるし、やってみるか? ただし、事件があれば、そっち優先だからな」
「了解」
 真面目な翠らしい言葉に、柊一は思わず苦笑しながら返す。だが、気になるのは事実だ。刑事としてやってきた捜査精神がうずく。
「んじゃ、ぱっぱと用事片付けて、捜査開始と行きますか?」
「うん」
 翠が頷いてくるのを見、柊一は石を抱えてその目的地へと向かった。

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〔2005.6.13〕
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