話し終えた時には、高斗も香織も、果てはロッキーまでもがきょとんとした表情を見せている。その沈黙の中、第一声をあげたのは香織だった。
「また、妙なことに首を突っ込んでるのね…」
そのどこか呆れたような声は、翠に、ではなく、敦郎に向けられたものだった。それに気付いて、彼も反論する。
「何で俺だけなんだよ? 翠もノってンだぜ?」
「どうせあんたが巻き込んだんでしょ? ゴメンね、翠くん」
敦郎にはため息混じりに言い放っておきながら、翠には笑顔を見せて、香織。今は彼女よりも年上の姿をしているが、いつでもどんな姿でも弟は弟らしい。
その"弟"に対する態度とはうって変わって、翠と楽しげに物体についての推理を始める香織を見て、敦郎は思わず半眼で呟いた。
「お前、あんな女のどこが良いわけ?」
「それはお前の方が良く解ってるんじゃないのか?」
逆に聞き返され、敦郎は思わず言葉を詰まらせる。こんな態度を取ってくるが自分の姉だ。それに、必要な時には優しい言葉もかけてくれる。そんな人だと知っていたからこそ、高斗になら任せられると思ったのだから。
それを悟られたくなくて、敦郎は隣にいた翠を引き寄せた。
「香織よりも、こいつの方が解るんだけどなぁ、俺」
「何バカなこと言ってンだ!」
言って、引き寄せた瞬間、翠の裏拳が顔面に入る。それに敦郎は思わず顔を押さえて声なき声をあげたが、翠は構わず敦郎から離れて高斗に目を向けた。
「それで、高斗さん、情報っていうのは?」
「あぁ、そうだったな」
思い出したように頷き、笑いながら高斗。敦郎が良いようにあしらわれているのがよっぽどおかしかったらしい。ただ、同じように爆笑していたロッキーには制裁を加えておいたが。
「で、お前もいつまで笑ってンだよ?」
「あぁ、悪りぃ。情報ってのはこれだ」
言いながら、高斗は一つのメモリーチップを差し出してくる。詳しい内容はここに入っているらしい。
「この間、お前達が調べてた事件の裏づけだ。これで物証は完璧だろ?」
「あぁ、そういうことな」
高斗の言葉に、敦郎は乾いた笑みを浮かべて応じる。だが、その意味に高斗は気付いたようだった。
「何だ? 違法アダルトサイトの摘発でもして欲しかったか?」
「あぁ、折角刑事で、18歳以上になってンだし、それくらいやらせてくれても…って!」
言葉半ばで翠からの制裁が入り、敦郎はそのまま沈黙させられる。その光景に、香織は静かに嘆息した。
「自分でそういう本買う勇気もないくせに」
「誰がだよッ!」
その言い草にはさすがに反論もあるが、それすら翠に封じられる。相棒を黙らせたことで満足した翠は、高斗と香織の方に向き直った。
「それじゃあ、ありがとうございました。ぼく達はこれで」
「えぇ。大変でしょうけど、敦郎の相手、よろしくね?」
香織と翠が和やかに話している中で、高斗は半分呆れ気味に、半分楽しんでいるかのように笑いながら、敦郎に声をかけた。
「苦労するよなぁ、お前も」
「まぁ、あれだな。貴様も小僧同様、一言多いということだな」
「てめェもな」
高斗の言葉に同調しながら言ってくるロッキーの言葉に、敦郎は思い切りどついて黙らせる。ロッキーが悶絶するのを見て取ると、敦郎は翠の方に向き直った。
「んじゃ、帰るぞ、翠」
「うん、早く帰って調べないとだしな」
言いながら立ち上がって、翠は敦郎の言葉に従う。そして、部屋を出ようとした刹那、高斗に声をかけられた。
「敦郎、一度、そいつが落ちてたところに行ってみたらどうだ? 犯人は現場に、って言うだろ?」
「そうだな…。そうしてみる」
高斗の言葉に頷いてみせ、敦郎は部屋の戸を閉めた。その直後、半眼になって呟く。
「あぁもう、あのバカ犬のせいですげェ疲れたぞ…」
「何? 同族嫌悪?」
軽く笑って、階段を下りながら、翠。それには、敦郎もむっとした表情で反論した。
「誰と誰が同族だ? あんな奴と一緒にすンなよ」
「そういうところが似てるって言うんだよ。やっぱり、自分じゃ気付かないもんだね」
「う…」
断定的に言われて、敦郎も言葉を詰まらせる。シャクな話ではあるが、自分でも若干そういう風に思っていた節があるだけに、余計反論が出来なかった。
「じゃあ、行ってみようか? そいつが元あった現場」
言って、翠は自分が手にしている物体を見せるようにする。今まで刑事をやってきて、確かに犯人が現場に戻ってきた例もあるだけに、行ってみる価値はありそうだ。ただし、これが意図的に置かれたものならば、の話だが。
それでも、今はわずかな情報しかないだけに、現場を当たってみるのもやり方だ。
翠の言葉に頷いてみせ、敦郎は車に乗り込んだ。
〔2005.10.12〕
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